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【コラム】西部謙司

シーズン半ばの引き抜き

[ 2011年6月23日 06:00 ]

西部謙司さんの新刊「サッカー バルセロナ戦術アナライズ 最強チームのセオリーを読み解く」
Photo By 提供写真

 ガンバ大阪のアドリアーノがカタールのラッホイヤへ移籍する。G大阪のブラジル人ストライカーがシーズン半ばに中東へ移籍するのは、もはや恒例となっていて、マグノ・アウベス、バレー、レアンドロもそうだった。

 09年にレアンドロがアル・サッドへ移籍したとき、西野朗監督は、
「シーズン途中でいなくなることを想定しているわけではない」

 と言っていたが、すぐに当時アルビレックス新潟でプレーしていたペドロ・ジュニオールを獲得している。中東がG大阪から引き抜き、G大阪が他のJクラブから引き抜く。はたして今回も同じパターンになるのだろうか。

 中盤から後ろは日本人で固め、フィニッシャーにJで実績のあるブラジル人選手を据えるのが、G大阪のチーム作りの定番だ。シーズン半ばで入団してくるブラジル人FWの特徴はさまざまだが、彼らの特徴を生かす工夫をしている。例えば、左寄りの位置からシュートへ持ち込むのが得意なFWであれば、右サイドでパスをつないでからサイドを変えて、FWがスペースを持てるようにする。遠藤保仁を中心に、新外国人という素材を生かせる料理人が揃っているわけだ。

 しかし、そうはいってもやはりシーズン途中で戦術を調整しなければならないのは、歓迎できることではない。G大阪に中心選手を引き抜かれるチームにとっても同じことだ。

 一方、引き抜き側のカタールは効果がはっきり表れている。浦和レッズからエメルソンを獲得したアル・サッド、元G大阪のアラウージョ、マグノ・アウベスを獲ったアル・ガラファはともにリーグ連覇を果たしている。Jリーグで半年間に二桁得点できるブラジル人は、カタールのクラブにとっては保証書つき、お買い得なのだ。

 ブラジルの好景気によって、以前ほどブラジル選手はJに来なくなった。それでも、Jリーグで活躍した選手は今後も中東クラブのターゲットになっていくだろう。一方、日本人選手の欧州行きも増加傾向だ。今夏も宇佐美(G大阪)、高木(東京V)のバイエルン・ミュンヘン、ユトレヒトへの移籍が決まり、乾(C大阪)、関口(仙台)にも移籍の噂がある。日本人選手の評価が上がるのはうれしい半面、やはりシーズン途中で引き抜かれるチームは難しい対応を迫られる。

 中東や欧州とはシーズンがズレていることが、Jリーグにとって余計に状況を難しくしているわけだが、すぐに秋春制に移行できるわけでもない。チームとしては、中心選手のシーズン半ばでの引き抜きをある程度想定したうえで、チーム作りを考えるしかないのかもしれない。また、契約書をがっちり作って、少なくとも相応の違約金が入るように工夫する必要もあるだろう。(西部謙司=スポーツライター)

 西部謙司さんの新刊が出ました。「サッカー バルセロナ戦術アナライズ 最強チームのセオリーを読み解く」(カンゼン、本体1600円)バルセロナの戦術を徹底解析しています。また、7月8日午後7時からジュンク堂新宿店で西部さんのトークセッションが開催されます。入場料は1000円で1ドリンク付きです。

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