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【コラム】西部謙司

カズ・ゴール

[ 2011年4月2日 06:00 ]

<東日本大震災復興支援チャリティーマッチ>後半36分、闘莉王のアシストからゴールを決めカズダンスを披露するJリーグ選抜FW三浦知良
Photo By スポニチ

 チャリティーマッチのハイライトは、三浦知良のゴールだった。試合は日本代表が2-1でJリーグTEAM AS ONE を下したが、Jリーグの1点を決めたカズが最後に全部持っていった感じだった。

 44歳の“キング”は「東北の皆さんに届けたい」と語っていた。チャリティーマッチなのだから当然ともいえるのだが、これほど人々のために、全選手が1つになってプレーした試合があっただろうか。

 日本のサッカーは長くアマチュアだった。93年にJリーグが開幕してプロリーグができたが、当初は技術の面でも意識の面でも、アマのままの選手も多かった。そんな中、ブラジルから帰国してキャリアのピークにあったカズが、プレーと存在感の両方で、産声を上げたJリーグを引っ張っていった。

 カズは異色の選手だった。十代で単身ブラジルに渡り、プロデビューし、いろいろな苦労をしながら成功して帰ってきた。言動もプレーも、当時の日本サッカーでは変わっていた。当時、僕はカズが日本では“浮いて”しまうのではないかと思っていたのだが、そのツッパリ具合がJリーグの上昇機運にマッチした。

 ピッチ上のカズはエゴイストで、けれんみたっぷりのアタッカーだった。エネルギーに任せてどんどん突破し、どんどんシュートを放ち、どんどん外した。いくら外しても全然平気。そのうち、ここという瞬間に試合を決める一撃を放ち、連日新聞の一面を飾った。

 そのカズも44歳。誰もがカズのゴールを望んでいたと思う。その国民的な期待に、見事に応えてみせた。今回のチャリティーマッチでは、どの選手もこれまでとは違う思いを抱いてプレーしていたに違いない。自分のためではなく、チームやサポーターのためでもなく、被災者の方々だけのためでもない。皆のため、人々のため、国民のためにプレーしたのではないか。お金をもらうからプロなのではなく、ただサッカーが上手いからプロなのでもない。ファンがいて、社会から認められ、人々のためにプレーしてこそプロである。

 上を目指してプレーする。これもプロらしいのだが、やはりそれだけではない。若いころのカズはエネルギーと上昇志向にあふれたプロらしさを示した。そして、今回のチャリティーマッチでは別のプロらしさをみせた。日本サッカーが成熟へ向かう転機になっただろう試合で、カズのゴールは象徴的だった。(西部謙司=スポーツライター)

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