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【コラム】西部謙司

ゼロ円移籍の時代

[ 2011年2月17日 06:00 ]

移籍後初ゴールを決めて喜ぶフェイエノールトの宮市
Photo By 共同

 岡崎慎司のシュツットガルトへの移籍をめぐって、シュツットガルトと清水エスパルスの間でもめている。岡崎が被害者のように言われているが、契約解除に関しての問題なので、岡崎はむしろ当事者だと思う。気の毒ではあるが。

 今回の問題で、Jクラブは今後、移籍に関して違約金をとれなくなるのではないかという声も上がっている。国内外を問わず、Jクラブはいわゆる移籍金ビジネスを成立させるのが難しい状況にあるのは確かだ。有力な選手は、予め単年契約を結んで移籍に際して違約金が発生しないようにしている。半年を過ぎれば、選手は自由に移籍交渉ができる。クラブとしては半年を過ぎる前に、次のシーズンの契約について話す必要がある。

 所属クラブでプレーを続けたいと選手が考えたとき、口約束だけでは頼りないので、クラブ側から来季の契約について書面をもらうか、その時点で契約を更新してしまうことも考えられる。つまり、そうなると1年契約を続けていっても、おそらく半年は余っている形になるのではないか。夏と冬、移籍市場の開く時期には、どの選手も半年間はまだ契約が残る。そうなれば、ゼロ円移籍ばかりという状況も多少は変わっていくのだろう。

 しかし、クラブ側の立場でいえば、半年ごとに選手の契約を見直していく作業のせわしなさもさることながら、中期的な視野でのチーム編成がやりにくい。やはり、複数年契約を結んでいくのが望ましい。

 アーセナルへ入団し、現在はオランダのフェイエノールトへ貸し出されている宮市亮のように、Jリーグを介さずに高校サッカー部から欧州クラブへというケースも増えていくのかもしれない。一般的に選手として完成に近づくのは25歳ぐらいだと思うが、才能そのものは十代からはっきりしている。アーセナルのように、原石を探して契約するクラブが日本に目をつけていけば、才能そのものはけっこういるのではないか。

 アルゼンチンにスクールを持っていたバルセロナは撤退の方向だという。16歳までの原石を探すつもりだったが、地元のリーベルプレートやボカ・ジュニオルスといった有力クラブに囲い込まれてしまい、思ったほど成果をあげられなかったからだそうだ。今後は日本でも、若い才能をめぐって国内だけでなく外国とも熾烈な獲得競争が展開されるようになるのだろう。(西部謙司=スポーツライター)

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