×

【コラム】西部謙司

香川は前田にパスすべきだったか?

[ 2011年1月26日 06:00 ]

<日本代表・韓国代表>前半、タックルをかわして攻めあがる香川
Photo By スポニチ

 アジアカップ準決勝の日韓戦、後半2分に日本のチャンスがあった。ペナルティーエリア外の香川真司にパスが渡る、香川はシュートに持ち込もうとしたが複数の韓国DFにコースを塞がれ、結局チャンスを潰してしまった。このとき、香川の左にはフリーの前田遼一がいた。

 香川には、前田が見えていたという。見えていたが、あえて自らシュートすることを選択した。香川は前田にパスすべきだったのではないか?

「後半の立ち上がりに、香川君にいいボールが入って…」

 試合後、そこまで質問すると、もう香川には何を聞かれるのかわかったようだった。自責の表情がみえた。ただ、香川が悔やんでいたのは前田へパスしなかったことではなかった。

「シュートで終われればよかったんですが、最悪の結果になってしまった」

 シュートを選択したことを後悔しているのではなく、シュートするつもりでできなかったことを悔やんでいた。

 かつての名FW釜本邦茂は、自分にマークがいて隣にフリーの味方がいてもシュートを打つと話していたことがある。では、自分に対してDFが2人、味方がフリーの場合は?

「それでもシュートや」

 いかにもストライカーという回答である。こうしたエゴイスティックなほどの自信と得点への意欲に欠けているから、日本人にいいストライカーがいないのだという話もよく耳にする。

 ところが、外国人のコーチにこのあたりのことを聞くと、例外なく「それは当然パスすべきだ」と言う。イビチャ・オシムが日本代表監督だったときに、中村憲剛が香川と似たような状況でシュートを打って外した。そのときオシム監督は、

「明日の新聞の見出しが頭に浮かんだのだろう」

 強烈に皮肉った。ただ、もしシュートが入っていたら、ブラボー! と言っていたかも知れない。

 香川のケースでは、やはり前田にパスを出すのがセオリーだ。コーチはまずセオリーを教える。しかし、ときにはセオリーを外したほうがいいこともある。優れた選手ほど、裏をいきたがる。優れたストライカーは自分の間合いに入ったら譲らない。けれども、セオリーを無視して結果を出せないと、そのプレーはエゴということになる。香川が「最悪の結果」と言っているとおりだ。市場価格で20億円を超えるという香川だから、シュートを決めるかパスして決めさせるか、どちらかで貴重な1点をもたらしてほしかった。さらなる成長に期待したい。(西部謙司=スポーツライター)

続きを表示

バックナンバー

もっと見る