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【コラム】西部謙司

アジアカップのノルマ

[ 2011年1月7日 06:00 ]

<アジア杯日本代表練習>ザッケローニ監督(右)の前で気合の入った表情を見せる本田圭
Photo By スポニチ

 アジアカップのノルマは何か。それを達成できなければ監督の責任が問われる、解任されるという意味でのノルマだとすると、今年のアジアカップにノルマはない。

 ファンの気持ちからすれば、W杯でベスト16に入れたのだから、アジアでは決勝までは行ってほしい。少なくともベスト4に入らなければ「失敗」という印象になるだろう。だから目標という意味では優勝、少なくとも3位以内になると思うが、それをノルマとして設定することはできない。具体的にノルマを設定するのは協会だ。しかし、協会がザッケローニ監督に対してノルマを課すとは到底思えない。

 前回も前々回も、その前も、アジアカップを万全の準備で迎えたことがない。オシム監督の前回は事前の練習期間が短かった。その前のジーコ監督のときは海外組など多くの主力を欠いていた。トルシエ監督の00年は、シドニー五輪に出たメンバーが何人か出ていなかった。今回も事情は似たようなものだ。

 カタールに出発する前の合宿には、天皇杯が残っている選手たちの合流が遅れた。ザッケローニ監督は就任から2試合を指揮しただけ。就任からアジアカップまでの期間が短かったオシム監督でも1年あったのが、今回はほとんどここからのスタートになる。欧州組は招集できたが、シーズンオフのJリーグ組のコンディションには不安が残る。準備が悪くても結果を求められるのがプロとはいえ、この状況で協会がノルマを設定できるとは思えない。

 今大会は14年W杯への強化としてとらえるべきだ。結果よりも、内容を厳しくみていったほうがいい。具体的には、守備を固めてくるだろう相手を攻略できるかどうか。逆にいえば、それができればグループリーグは突破できると思う。ベスト8にも残れないようなら、おそらく内容的にも見るべきものがないということだろうから、監督の責任は問われるだろうし、ノルマの設定に関わりなく辞任や解任はありえる。だが、いまザッケローニ監督に辞められて一番困るのは協会だろう。

 本来なら、ノルマは提示したほうがいい。しかし、ファンの期待値が現状で設定できるノルマを上回っている場合、ノルマを発表してもあまり意味がない。例えば、現状を分析した技術委員会が「ノルマはグループリーグ突破」と発表しても、ファンも選手も低すぎると感じてしまうだろう。ただ、本来は技術委員会というエキスパートの部門があるのだから、設定が世論より低かろうが高かろうが、専門的な見地から“本当のこと”を言っておいたほうがいい。ノルマの設定は、ある意味専門家グループのノルマといえるかもしれない。(西部謙司=スポーツライター)

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