【コラム】西部謙司

異質な町田 ロマンに寄りすぎたJに対するアンチ・テーゼ?

[ 2024年4月11日 17:00 ]

<川崎F・町田>サポーターと勝利を喜び合う町田イレブン(撮影・村上 大輔)
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 J1第7節終了時で首位は町田ゼルビア。J2から昇格したばかり、J1初参戦の町田にはファンの間で賛否両論がある。

 シーズン序盤とはいえ堂々の首位なのに批判があるのは、町田のプレースタイルがある種Jリーグへのアンチ・テーゼになっているからだろう。

 町田の特徴は堅固な守備。前線からプレッシャーをかけていくハイプレス、ミドルゾーンに構えたブロック守備ともに固い。奪ってからのカウンターアタックも鋭い。

 異質なのはハイクロスとロングボールの多用、やや過剰な球際の激しさ。その背景に見える勝利至上主義なのだと思う。

 ハイクロスは長身のFWオセフンを活かす攻撃方法だ。ロングスローも武器で、長所の高さを存分に利用している。攻撃の要諦は相手のCBを攻略すること。GKをべつにすると、CBは最も重要なエリアを守っている。CBを回避して他のエリアでいくらパスをつないだところでまずゴールは生まれない。オセフンの頭上にボールを送ってチャンスを作ろうとする町田のアプローチは、至極単純ではあるがCBを攻略していて効果も出ている。

 ロングボールはセカンドボールの回収とセット。自陣から蹴るので、ビルドアップはあまり行わない。ここが近年のJ1の流れと一線を画す部分だ。

 1シーズン制になった2017年からの6年間、川崎フロンターレと横浜F・マリノスしか優勝していなかった。二強の特徴はビルドアップができること。押し込めるのでハイプレスが効くこと。この攻守の循環はいわば優勝チームの典型的なスタイルで、欧州リーグの優勝チームもほとんどこれだ。川崎、横浜FMに倣い、多くのチームがビルドアップとハイプレスに取り組んでいった。

 おりしもポジショナルプレーという使えるツール(理論)が普及している。当初はポジショナルプレーを手の内に入れる競争だったが、普及してしまえば相手の手の内もわかってしまうわけで、そうすると形で優位性を持っていたチームは技術の粗を露呈することになった。ビルドアップがハイプレスに食われるリスクが高まったのが近年の傾向だ。

 町田はそのリスクを回避したわけだ。昨年優勝のヴィッセル神戸も同じだった。ビルドアップのリスクを回避して蹴るなら、前線に強力なターゲットが必要。神戸は大迫勇也がいて、町田にはオセフンがいる。

 球際の激しさは町田だけではない。強度重視は近年のJリーグの特徴。セカンドボールがスタイルの成否を左右するので、タックルが遅れてファウルになることは多いが、相手の速攻を止めるためのテクニカルファウル(またはプロフェッショナルファウル)はどのチームもやっている。

 こうしてみると町田が批判されるいわれはないように思えるが、決定的なのはロマンの欠如である。町田は、かつて全盛期のバルセロナが「アンチ・フットボール」と相手を批判していたスタイルに近い。

 勝つことに徹する。それこそがロマンだというなら話はべつだが、プレーそのものが仕事すぎてロマンを感じないファンもいるだろう。勝つためだけにプレーするのか、プレーして勝つのか。サッカーの歴史では常にあった対立であり、現実主義の町田が異質なのはJリーグがロマンに寄りすぎていた証左ともいえるのではないか。(西部謙司=スポーツライター)

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