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【コラム】金子達仁

守田筆頭に各駅停車から後半一変文句なし

[ 2021年6月12日 10:00 ]

<日本・セルビア>前半、守田(撮影・篠原岳夫)
Photo By スポニチ

 テレビ局の企画で、ストイコビッチの現役生活最後の2年間に密着させてもらったことがある。ニシュにある実家で両親に話を聞き、ベオグラードではピクシーの家で名物の子豚の丸焼きをご馳走(ちそう)になった。

 興味深かったのは、いささか偏執的ともいえる、10という数字へのこだわりだった。クルマのナンバーは?もちろん10。閑静な住宅街にある豪邸の番地も10。

「わたしにとって特別な番号だからね」

 それはピクシーが最も多く背負った番号であったと同時に、ペレやプラティニ、マラドーナがつけた番号でもある。10という数字にこだわる彼の気持ちは、わたしにもわかる気がした。

 21年6月11日のセルビアに、背番号10はいなかった。

 先発メンバーに、ではない。ベンチにもいなかった。10という数字にこだわり続けた男が率いるチームに、背番号10がいなかった。今回のセルビア代表は、そういうチームだったということは頭の隅に置いておく必要がある。

 ただ、飛車角が抜けた相手だったということを差し引いてもなお、この試合の日本をわたしは評価したい。得点はセットプレーからの1点のみだったし、運が悪ければ引き分けに終わっていた可能性もあった。それでも、である。

 前半の日本は、簡単に言ってしまえば超一流の守備と、三流の攻撃が同居したチームだった。攻から守への切り替えは、タフな欧州予選を戦うセルビアにとっても、面食らうレベルにあったはず。日本より激しいチームは珍しくないが、これほど長い時間、ボールを失った途端に全員のディフェンス・スイッチが入るチームはちょっとない。

 だが、恐ろしく速かった攻から守への切り換えに比べると、守から攻への切り替えは各駅停車だった。ダイレクトで急所をつこうとする動きはほとんどなく、安全第一で味方につける選択ばかり。これでは、いくら保持率が高かろうと相手からするとまるで怖くない。

 こういう場合、効果的な対策は大まかにいって二つある。より保持率を高めるか、個人で仕掛ける場面を増やすか、である。残念ながら、前半の日本はそのどちらでもなかったが、後半に入るとガラリと変わった。

 交代した選手が変化をつけたというのもあるが、何より大きかったのは、前半の45分間で選手間の理解というか、熟成が進んだことではないか。わたしが特に気に入ったのは守田で、前半の彼が昔ながらの守備的MFだとしたら、後半は一流のハンドラーになっていた。守田だけではない。安全第一のパスばかりを繰り返した選手たちは、挑戦的なタテへのパスを散りばめ始めた。

 1試合の中で、これだけの変化、成長を見せてくれれば文句はない。追加点こそ奪えなかったものの、遠藤や冨安、吉田など五輪組が抜けたことによる物足りなさは、試合の終盤、ほとんど感じなくなっていた。

 惜しむらくは、非の打ち所のない代表初ゴールかと思われたオナイウの一撃が、微妙なジャッジで取り消されたこと。大柄なセルビアDFをまったく苦にしなかった動きは、相当な自信になっただろうが、点をとっていないストライカーの自信は本物ではない。次の機会にゴールを決められるか否かで、オナイウの人生は大きく変わる気がする。(金子達仁氏=スポーツライター)

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