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【コラム】金子達仁

ハリル監督招聘は明らかな失敗 地図を持たずに荒野に放り出された11人

[ 2018年3月28日 11:15 ]

国際親善試合   日本1―2ウクライナ ( 2018年3月27日    ベルギー・リエージュ )

ハリルホジッチ監督を招聘したのは、明らかな失敗に終わった…
Photo By スポニチ

 個性的なウイスキーを作る醸造所があったとしよう。好き嫌いははっきりと分かれるけれど、口に含めばすぐにそれとわかるような、明確な特徴を持ったウイスキーである。 試合結果

 あるとき、醸造の責任者が代わった。新任の担当者は、それまで作っていたものは個性的すぎると考えた。そこでちょっと加水してみたところ、これが悪くない。それまでのウイスキーに新たな魅力が加わったと受け取る人もいた。

 気をよくした責任者は、どんどん加水をしていった。加水して加水して加水して……気がつけば、ウイスキーは何の特徴もない、ただの水になっていた。

 それが、現在の日本代表である。

 ボールの保持には意味がない、とハリル監督はいう。わたしの意見は違うが、そういう考え方があるのは理解できる。だが、だとしたらW杯まで3カ月を切った現在のチームから、「どこでボールを奪うか」という共通認識が一向に感じられないのはどういうことか。普通、ボール保持を否定する監督のほとんどは、そこの精度を磨くことに総力を注ぐのだが。

 いまの日本代表の選手たちは、地図を持たずに荒野に放り出された11人の旅人である。誰も目的地を知らず、誰も目的地にたどりつくための方法を知らない。目の前に現れる敵をかわすのが精いっぱいで、旅を楽しむ余裕などどこにもない。

 それでも、チームから覇気なり闘志のようなものが伝わってくるのであれば、まだ救いもある。監督の中には、戦術家としてではなく、モチベーターとして一時代を築いた人物も数多くいる。監督のために、あるいは誰かのためにという思いは、時に偉大な戦術よりも大きな効果を発揮することがある。

 だが、ボールを保持することをやめた日本代表は、ボールを奪うことに長(た)けたわけではなく、チーム一丸となっているわけでもない。これでいったい、どうやってW杯を戦うというのだろう。

 そもそも、このチームは強くなっているのだろうか。進化しているのだろうか。おそらくはハリル監督の代名詞として記憶されることになるであろう「デュエル」は、2年前よりも向上しただろうか。個々の選手は強さを増し、捨て去ったものを忘れ去らせてくれただろうか。

 監督とチームには相性というものがある。エバートンで成功したからといって、マンチェスターUでもうまくいくとは限らない。チームが変われば、あるいは時代が変われば、名将と言われた人物も石もて追われることがある。

 もう断言してしまっていいだろう。ハリルホジッチ監督を招(しょう)聘(へい)した今回のキャンペーンは、明らかな失敗に終わった。万が一本番のW杯で勝利をつかむことがあったとしても、日本の未来にポジティブな影響を与えるものではない。

 今回の遠征を喜んでいいのは、メンバーに選ばれなかった選手たちである。おめでとう、君たちのチャンスはこれで大きく広がった。(金子達仁氏=スポーツライター)

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