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【コラム】金子達仁

看過できないザスパサポーターのSOS

[ 2017年10月20日 06:00 ]

 いいか悪いかはともかく、わたしは、負けたチームの監督やフロントに「謝罪」が求められるような風潮が好きではない。怒りのやり場を求めるサポーターの気持ちもわかるが、敗北は断じて犯罪ではないし過失でもない。応援してくれたファンに申し訳ない、せめて感謝の意を伝えたい、と戦った側が考えるのならばともかく、応援する側がそれを強要するのはいかがなものかと思うのだ。このあたりは、メディアやファンがスポーツの敗者を「戦(争)犯(罪人)」扱いして平然としている日本人ならではの感覚かもしれない。

 なので、Jの試合後に張り出されることのある、ファンの横断幕については「まあ、気持ちはわかるけど」程度で受け流すことの多かったわたしである。

 ただ、先週の日曜日、正田醤油スタジアム群馬に張り出された横断幕ばかりは、スルーというわけにはいかなかった。

 「Jリーグへ関わるすべての皆様へ!! SOS」「今このクラブで起きていることを見逃してよいのか」――掲げられた横断幕のすべてを書き記すことはできないが、何事もクラブ幹部が密室で決め、しかも結果が出ていないことに対する不満など、どれもこれも、メッセージというよりは悲鳴に近いものだった。

 負ければJ3降格がほぼ決まるという状況で東京Vを迎えた群馬は、守備陣が感動的な奮闘ぶりを見せ、後半30分、FW姜修一(カンスイル)が待望の先制点を奪う。観客はわずか2000人あまりだったが、その瞬間の爆発的な歓喜は、世界中のどんなスタジアムにも負けていなかったはずだ。

 だが、悲しいかなそこは断然の最下位に沈むチーム。後半38分にPKで同点とされると、終了2分前には痛恨の勝ち越し弾を許し、そこで力尽きたのだった。

 そして、横断幕――。

 これは日本に限った話ではないのだが、よほど不人気な選手、あるいは超大物でない限り、ファンの怒りが選手個人に向けられることはあまりない。敗北に怒ったファンがその矛先を向けるのは、一に監督であり、二にフロントである。

 もちろん、監督やフロントの責任が大きい場合もあるが、ファンがすべて正しいわけでもない。かつて広島がJ2に降格した際、ネット上では監督の更迭を望む声が飛び交い、留任が決定してからはフロントを無能呼ばわりする声すらあったが、そこでフロントが屈していれば、後の栄光はありえなかった。ファンが追い出そうとしていたのは、ペトロヴィッチ監督だったからである。

 だが、ザスパのサポーターが掲げたのは、フロントや監督の責任を問うものだけではなく、現状を多くの人に知ってもらいたい、という叫びだった。

 ならば、耳を傾けようではないか。

 ファンとチーム、どちらかに与(くみ)しようという気持ちはまったくない。ただ、いまの群馬からは尋常ではない気配を感じる。SOSを、わたしは受け止めようと思う。(金子達仁氏=スポーツライター)

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