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【コラム】金子達仁

素晴らしきガラパゴスで本田は何を感じるか

[ 2017年7月28日 15:00 ]

パチューカの日本代表FW本田
Photo By AP

 ガラパゴス、というと最近ではすっかりネガティブな使われ方をするようになってしまったが、そもそも、グローバル・スタンダードとやらからかけ離れていることが、それほどいけないことなのか、と思う。

 以前にも少し書いたが、ブラジルの港町サントスで開催された「ネイマールジュニア5」というストリート・サッカー・スタイルの世界大会を取材した際、いささか衝撃だったのが世界53カ国から集まった選手たちの「共通項の多さ」だった。

 考えてみればそれも当然で、この大会に出場したすべての選手はネイマールというブラジル人スターの存在とプレースタイルを知っているし、自国のリーグを見るのと同じようにプレミアやリーガ、ブンデスを見ている。お手本が共通になった以上、そのフォロワーたちが似てくるのは当然の帰結である。

 だから、本田圭佑のメキシコ・パチューカ入りは実に面白い決断だったと思う。

 残念ながら、いまの日本のサッカースタイルを決定づけているのは、日本人の国民性でもなければJリーグでもない。外国人の監督と、外国で注目を集めている最新のスタイルが、外国でプレーする日本人によって形にされている。優秀な選手がこぞって欧州を目指している以上、これは仕方がないことだともいえる。

 その点、メキシコは明らかに異質である。アルゼンチンやブラジルといった南米のサッカー大国は、自国経済力の弱さから選手を国内に引き留めておくことが難しくなっているが、欧州に負けないほどの財力を誇るメキシコのクラブは、依然スターを保持し続けられている。収容人員10万人を超えるエスタディオ・アステカが超満員になるのも、決して珍しいことではない。

 結果、いまやメキシコは世界でも数少ない、以前からの自国のスタイルを色濃く残す国になった。言ってみれば、サッカー界に残された素晴らしきガラパゴス――それがわたしのメキシコに対する印象である。

 そこで、本田は何を感じ、何を考えるのか。

 90年W杯イタリア大会への予選参加資格を剥奪されたことをきっかけに、メキシコのサッカーは大きく変わった。南米ほどのテクニシャンがいるわけでも欧州ほどの組織力があるわけでもない凡庸なサッカーは徹底してポゼッションを重視するスタイルへと大きく舵(かじ)を切った。現在のメキシコは、W杯で優勝経験がないにもかかわらず世界中にシンパを持つ希有(けう)な存在である。

 いま、世界のサッカーはポゼッション重視から速さ重視へとシフトしつつあるように見える。そんな中、メキシコはいかなる道を進もうとしているのか。それを体感することは、彼だけでなく、日本サッカーの未来にとっても大きな財産となろう。

 都落ち?とんでもない。本田圭佑は、世界でも例をみない特別な国に足を踏み入れたのである。(金子達仁氏=スポーツライター)

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