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【コラム】金子達仁

都倉(札幌)のヘディングシュートが美しすぎて

[ 2017年5月13日 06:00 ]

リーグ戦10試合で5得点を決めている札幌のFW都倉賢
Photo By スポニチ

 サイドからのクロスをゴール前のストライカーが頭で合わせた。そんな時、必ずと言っていいほど解説者やアナウンサーから言われる言葉がある。

 「いいクロスでしたねえ」

 なるほど、ドリブルでの突破から決めたシュートなどとは違い、ヘディングシュートはアシスト者の果たす役割がずいぶんと大きいのは事実である。ただ、最近になってちょっと思い始めたことがある。最近の日本、あまりにもクロスの側にスポットをあてすぎではないだろうか、と。

 わたしが子供の頃、日本の絶対的なストライカーは釜本さんだった。テレビ中継がされることなどほとんどなかったし、された試合で釜本さんのヘディングシュートを見た記憶もあまりないが、しかし、釜本さんが決めたシュートは、釜本さんだけがアナウンサーや解説者から絶賛されていた印象がある。「いいクロスでしたねえ、釜本は合わせるだけでしたねえ」なんて実況は、聞いたことがない。

 なぜこんな昔話を持ち出したのかというと、最近の札幌の試合を見ていて、感じるところがあったからである。

 都倉賢のヘディングシュートが美しすぎて。

 釜本さんがそうだった。海外で言うと、80年代から90年代にかけて西ドイツ代表として活躍したカールハインツ・リードレあたりがその典型例か。巨漢とは言い難い体格ながら、空中で停止したかのような錯覚を覚えさせる滞空時間から、鋭角的な一撃をたたき込む。1メートル80に満たない身長しかなかったにもかかわらず、現役時代のリードレは「エア・リードレ」とも「空の要塞(ようさい)」とも言われたが、それが誇張だとは誰も思わないほど、制空権を握る能力は高かった。

 いまの都倉には、リードレがダブる。あるいは、オーストラリア代表のカーヒルが。

 公表されている都倉の身長は1メートル87。日本人の中では大柄な体格であることは間違いない。だが、彼のヘディングは、身長ではなくポジション取りの上手(うま)さと走り込むタイミングの良さ、そして何よりもジャンプ力を最大の武器としている。タイプとしてはマインツでプレーしている武藤にも同じにおいを感じるが、パンチ力の印象では都倉に軍配があがる気がする。

 ちなみに、彼が今季ここまでにあげたゴールは「5」。攻撃のバリエーションが豊富とは言い難い札幌にあって、都倉の存在とヘディングは真っ先に警戒されるポイントなのだが、それでもゴールを量産しているのは見事というしかない。

 近年の日本代表には、ポストプレーとしての高さを武器にする選手はいても、怪鳥のごとくゴール前に舞い上がるタイプがいない。劣勢を強いられることが多い札幌で得点を稼いでいるというのも、W杯における日本の立ち位置を考えるとより評価できる。いま、わたしが一番注目しているストライカーである。(金子達仁氏=スポーツライター)

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