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【コラム】海外通信員

新イタリア代表監督 ジャンピエロ・ベントゥーラとは?

[ 2016年8月26日 05:30 ]

イタリア代表監督に就任したジャンピエロ・ベントゥーラ
Photo By AP

 EURO2016でイタリア代表は、下馬評を上回る素晴らしい戦いを見せた。「史上最弱」と呼ばれながら、1次リーグは1位で通過し、スペインを破って8強にも進出。ドイツにはPK戦の末に敗れるが、余計なジェスチャーの末にPKを失敗したグラツィアーノ・ペッレとシモーネ・ザザに対する批判以外、イタリアのファンとメディアは健闘をたたえた。W杯ブラジル大会での失敗と、そしてタレントの不在が原因となった人気凋落に歯止めをかけ、アントニオ・コンテ監督は英国へと旅立った。

 気になるのは今後である。選手たちに組織力と闘志を植え付けたコンテの作ったチームを、いったい誰がどのように受け継ぐのか。イタリアサッカー協会(FIGC)が次期監督として白羽の矢を立てたのは、コンテとは違うキャリアの持ち主だった。ジャンピエロ・ベントゥーラ、68歳。1980年から指導者を務め、この道36年のベテランだが、キャリアはイタリアの中堅から下位クラブが中心で、ビッグクラブでの指導経験も、選手としてビッグクラブで戦った経験もない。ユベントスのOBとしてクラブを立て直し、リーグ3連覇を成し遂げた前任者とは実に対照的である。リーダーシップのみならず卓越した戦術理論を持ち、勇気を持って攻撃サッカーを貫いたカリスマ監督の後を継ぐには、いささか心もとないと思われるかもしれない。

 ただこのベントゥーラは、単なる老監督ではない。実は独特のサッカー理論を持った、ヨーロッパでは知る人ぞ知る名指導者なのだ。そのサッカーの特徴は一言でいうと、後方から組み立てる攻撃サッカー。ふつう、攻撃を展開したい場合は中盤でパスをつなぎ、組み立てるのがセオリー。ところがベントゥーラ監督のサッカーはDFラインでパスをつなぎ、後方でためを作る。当然相手は前がかりになってボールを奪いにくるが、そこで一気に前線とサイドの選手を走らせ、素早くボールを送って攻略するというものだ。また人材育成もうまく、攻撃サッカーのもとで多くのタレントを発掘してきた。

 ずっとビッグクラブに縁がなかったので、当然マスメディア的に有名な人物ではなかった。だがその評判は欧州全土に轟き、かつてはあのビラス・ボアス(現ゼニト監督)がポルトで監督をしていた時代にわざわざ練習の見学に足を運ぶほどだった。もっとも、そんなベントゥーラ監督がキャリアハイを迎えたのは2010年に突入してから。見事な攻撃サッカーを展開してバーリをセリエAに昇格させると、2011年からトリノで素晴らしい成績を挙げた。セリエBでうだつの上がらない日々を過ごしていた古豪を1年でAに昇格させ、そのあとは限られた戦力を育てて実力以上を引き出させる。2014年にはUEFAヨーロッパリーグの出場権すら獲得し、翌シーズンの同大会ではチームをベスト16へと導いた。戦力的にはリーグ戦での残留を目標とするクラブがここまでの成績を挙げたのは、まさしく異例の出来事だった。

 そして7月、イタリア代表監督に就任。トリノでのヨーロッパリーグの経験を別にすれば、国際舞台に打って出るのは、これがはじめてだ。ただ本人は至って自然体で「組織を作るという一番大変な仕事は、前任のコンテが頑張ってやってくれた。私の仕事の80%は、詳細を詰めるということだ」と謙虚に語っている。実際、後方からゲームを組み立てて速攻を狙うという戦術は、CBのレオナルド・ボヌッチを最後方のパス出し役として機能させたコンテのそれと似通っている。果たしてベントゥーラはどういう色を加えるのか。9月からは、2018年W杯ロシア大会の欧州予選が始まる。新しいタレントの発掘も含め、遅咲きの名伯楽の手腕に期待したい。(神尾光臣=イタリア通信員)

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