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【コラム】海外通信員

レスター岡崎が語る自分の生きていく道を作れる選手とは

[ 2016年6月4日 05:30 ]

プレミアリーグ優勝を報じる英紙
Photo By 提供写真

 2015~16シーズン、レスターは奇跡のプレミアリーグ制覇を成し遂げた。彼らが作り上げた映画のようなストーリーは、今後何十年も語り継がれるだろう。

 シーズン序盤戦、好調レスターの優勝を本気で語っている者はどこにも見当たらなかった 。ファンや選手でさえも半身半疑であることがメディアからも伝わってきた。またラニエリ監督は、会見で残留することだけが目標だと強調していた。 

 そんな中、ヴァーディの11戦連続ゴールのプレミアリーグ記録の樹立と共にチームは一気に首位まで登りつめた。が、周囲の目は常に懐疑的であり、レスターは個の力によって単発的に切り抜けており、上位陣として長期的に踏ん張ることは厳しいだろうという見方がされていた。

 その予測とは裏腹に、ヴァーディが連続ゴール記録の歴史を積み上げていく中で、選手一人一人の役割がはっきりと見えはじめた。それぞれのプレーに迷いがなくなり、後半戦に入る頃には、見ていて負ける気がしない本物のチームに変貌していた。

 2016年5月にロンドン市内で行われた優勝祝賀会で岡崎は次のように自身のシーズンを振り返った。

 「優勝できたことはとても嬉しいです。でも、スタメンで試合に出続けることができなかったので、個人的には満足のいくシーズンではなかったです。シーズンが過ぎていく中で、各選手の役割が固まっていきました。試合に出るために自分がやるべきこと、チームでの役割を意識しながら、さらに結果を出すことを考えたシーズンでした。ハードワークや献身性が評価されていますが、ストライカーとしての結果には満足していないので、来シーズンは、ヴァーディではなくて、自分がその役割を担いたいですね」

 ヴァーディとマフレズの2人が圧倒的な活躍を続ける隣で、ハードワークをいとわない岡崎の存在を現地メディアも取り上げるようになり、「プレミアリーグに移籍してきた選手の中でもっとも効果的な補強」であったと元マンチェスター・ユナイテッドのギャリー・ネビル氏がコメントを残した。

 シーズン中盤戦の岡崎は確かにレスター躍進に貢献はしていたが、英国国内では、アジア人プレーヤーが1人いるという認識に留まっていた。OKAZAKIの名が一気に浸透したのは、ニューカッスル戦で豪快なオーバーヘッドを決めたあの月曜日の夜からだ。岡崎自身は体調を崩しており、試合中のパフォーマンスは決してよくなかったが、首位を譲れないゲームにおいて、ストライカーとして勝負を決めるゴールを決めるという影響力の大きさを物語る一瞬だった。

 岡崎は、日本人選手の特徴と言っても良い規律の正しさと献身性を兼ね揃えている。レスター優勝の要因の一つは、カンテや岡崎に象徴されるようなハードワークであった。しかし、日本代表がW杯でさらなる結果を出すためには献身性だけではなく、ヴァーディやマフレズのような圧倒的な個の存在が不可欠であると語った。

 「プレミアリーグのチームよりもブンデスのチームの方が、戦い方はオーガナイズされているかもしれません。でも個人の能力ではイギリスの方が確実に高いと感じます。日本人は技術や戦術理解に長けていますが、飛び抜けた個の特徴がないのが現実。僕ら日本の選手は、何も言わなくても自然とチームの調和がとれるような習慣があるけれど、今の日本代表に求められるものは個々の成長で今の日本代表に足りない部分はそこだと思います」

 今シーズンのレスターの個の特徴を語る上での例を挙げてみたい。レスター右サイドのマフレズの強引なドリブルは、時にエゴイスティックに見えた。パスを選択できる場面でも無理やりに持ち込む場面が何度もあり、岡崎がフリーで待ち構えている場面では苛立ちを覚えた人もいただろう。マフレズのドリブルは一時期調子を落とし、先発から外れる時期があったのだが、彼は試合に出るためにはドリブルの回数を減らし、パスを出すようになる。そして先発に再定着するのだが、マフレズはパスの回数をまた減らし、自分の特徴であるドリブルを執拗に繰り返した、そして多くのゴールを決め続けた。今シーズン、17ゴール、11アシストという結果を残し、マフレズはシーズン最優秀選手に選ばれた。

 「自分で壁をぶち破っていけるメンタリティや能力がすごく大切で、誰かに教えてもらって壁を超えていくのでなく、自分で考えて自分の生きていく道を作れる選手が大事だと今感じます。組織の調和も大事だけれども、自分の意思を押し出して、壁を破っていく選手が日本には不足している部分であり、そこを強化していくべきだと思います」

 ドイツでの成功を捨て、0から挑んだプレミアでの1年目での成果は日本サッカー界にとっても大きな財産になるだろう。レスターの戦法を日本代表が見習うべきだという話ではなく、個人で打開できる能力の必要性と整った組織の中で強烈な意思を打ち出すことができるキャラクターの濃い自立したプレーヤーが今の日本代表には求められている。岡崎は日本人選手たちが誰も到達したことがない地点からサッカーを語っており、多くの関係者が耳を傾ける必要がありそうだ。(竹山友陽=ロンドン通信員)

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