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【コラム】海外通信員

大統領の弾劾とネイマールの五輪参加

[ 2016年4月30日 05:30 ]

リオデジャネイロ五輪に出場することになったバルセロナFWネイマール(左)
Photo By AP

 リオ五輪開始まで3カ月というのに、ブラジルは五輪どころでない騒ぎになっている。

 ルーラ前大統領が連邦警察に事情聴取され世論からの批判を受けた後、ルセフ大統領は、ルーラと自らの保身のためルーラを官房長官に就けるという、とんでもない手段をとることにした。官房長官なら、不逮捕特権により地方裁、高裁の権限を越え最高裁の取り扱いとなるための離れ業だ。しかし、これは猛烈な国民の怒りを買った。政府与党は分裂し、粉飾決算の罪を問われルセフ大統領の弾劾裁判に持ち込まれ、4月17日、下院本会議で賛成多数で決議されたのだ。

 513人の議員が一人一人演説をした後に賛成か反対かを表明するというスタイルのため、実に9時間に渡る投票が行われ、多くの国民がテレビ、ラジオの実況生中継を見たり聞いたり、それぞれの街で人が多く集まる広場や道などに繰り出して決議の行方を見守った。午後11時過ぎに、賛成多数になった瞬間、街の中はあちこちで花火が上がり、雄たけびが聞こえ、まるでW杯でブラジル代表がゴールを決めた瞬間かのようなお祭り騒ぎだった。国民にとって偉大なるゴールには違いなかった。

 この先、上院での決議に移行し、ここで賛成多数なら大統領弾劾が決定して、副大統領のミシェウ・テーメルが大統領を代行するが、それは決してめでたしめでたしではないのだ。テーメル氏も弾劾裁判を許可した下院議長のクーニャ氏も、みんな汚職に絡んでいる。同じ穴のむじな同士の権力争いにすぎず、誰がトップになっても問題は完全解決ではない。

 24年前にも大統領が汚職で弾劾された国ブラジル。この負の連鎖はいつまで続くのだろう。

 リオ五輪まで107日前の4月21日、ギリシャでは聖火の採火式が行われた。本来ならば、この式典に意気揚々と出席したかったはずの大統領だが、それどころではなくなってしまった。

 5月3日にブラジル首都のブラジリに到着するが、ルセフ大統領は聖火を受け取ることはできても、8月5日に華々しく行われるリオ五輪の開会式に大統領として出席することはないだろう。それまでに罷免が決まらなかったとしても、開会式に出たら大変な騒動になり、五輪の式典を台無しにすることは間違いない。

 さて、いいニュースを一つ!

 ネイマールがオーバーエイジ枠でリオ五輪に出ることをバルセロナが許可した。その代わり、コッパ・アメリカは休養を取ることになったが、二つの大会に出るのは無理だとわかっていたので、せめて五輪に出られるというのはブラジルにとって非常にありがたい。A代表と五輪代表を兼任するドゥンガ監督は二者選択なら金メダルを優先したいとネイマールの五輪参加を望んでいただけにほっとした。

 「五輪かコッパ・アメリカか、二者選択は難しいことだが、ネイマールは1シーズンをフルで戦ってきて休養も必要だ。ブラジルにとって悲願の金メダルの重要性はコッパ・アメリカよりも大きい」

 とはいえ、ドゥンガはこれまでU-23の監督してきているわけではない。急場しのぎ的な五輪チームになることを避けるために、リオ五輪ではU-23のロジェリオ・ミカーリ監督とフィジカルコーチのマルコス・セイシャスがスタッフに入ることが正式に決まった。ミカーリ監督は、昨年からCBF(ブラジルサッカー連盟)の育成世代の指導者に就任して、U-20代表を世界大会準優勝に導いた手腕を持つ。五輪代表はブラジルサッカー連盟の全面的なサポートで金メダルに挑む体制を整えている。(大野美夏=サンパウロ通信員)

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