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【コラム】海外通信員

日本の育成組織と英国プレミアリーグのアカデミーとの差とは?

[ 2016年4月16日 05:30 ]

名門ウェストハムのU-18のチーム分析官として1年間のインターンシップを行っている岡田悟氏
Photo By 提供写真

 日本の育成年代の強豪クラブや学校のサッカー部などが海外に出向く強化合宿は、新年度前の春休み期間中に多くが行われている。国内では体験できないような強い相手と対戦しながら異文化の中で生活することで、短期間ではあるが選手だけなく指導者にとっても新チームの強化に向けて大きな刺激となっている。

 3月末、英国ロンドンに横浜FCのU-17が10日間の日程来て、プレミアリーグのアカデミーと親善試合を行った。なかでも横浜FCとウェストハムの一戦は、両チームが激しくぶつかりあいお互いの長所を出し合う好ゲームとなった。横浜FCは試合終盤にゴールを許し、惜しくも敗戦したが日本のクラブチームがイギリスのトップレベルの選手たちを相手にしても、ひるまずに対等にやり合えることを証明した。

 しかしながら、育成年代を経てトップチームに定着するまでの5年から10年が経過すると選手個人としての成長の度合いは大きな差を生んでいるのが現状だ。その差はいったいどこに起因するのだろうか。

 リオ・ファーディナンド、ランパードなどの多くの代表選手を輩出している名門ウェストハムのU-18のチーム分析官として1年間のインターンシップを行っている岡田悟氏は、ウェストハムの16歳以降の選手たちの成長の過程を次のように語ってくれた。

 「イギリスではU-16の年代からクラブとプロ契約となります。U-16は国内でリーグ戦はないのですが、トレーニングマッチで活躍した選手たちは、すぐさまにU-18に招集されリーグ戦に出場します。先日の横浜FC戦に出場した8人が上の年代へ帯同しました。さらに、U-21の激しい中でのプレーをしている選手もいます。U-21のプレースピードは成熟しており、U-18よりもフィジカル面での強さが求められます。そんな中、先週のリーグ戦では、マンチェスターシティとアウェーで戦いましたが、マンチェスターシティの左サイドアタッカーのブラヒム・ディアスは16歳でU-21のゲームにおいても飛び抜けた存在です。同じ年代で活躍したら、そこで伸び伸びとプレーさせずに、すぐに上で試してみるという風土がここにはあります」

 横浜FCとウェストハムとの試合内容は、日本人の繊細なテクニック、献身的な動きと組織的な守備、DFラインからのパスの組み立ては十分に通用していた。しかしながら、相手のゴール前になると途端にトーンダウンしてしまい、脅威を与える機会は少なかった。反対にプレミアリーグを目指す選手たちは、個人の選手のスピードとフィジカルで圧倒する場面が多く、荒削りではあるが、明らかに飛び抜けているスピードをもった選手や、チームの舵取り役を任されゲームをコントロールするなど個性が強いスペシャルな選手たちを目の当たりにした。

 ウェストハムアカデミースタッフの入り口には、トップチームに20%以上の割合で自前の選手を送りだすことが、1つ目の目標に掲げられていた。また練習場に併設されている食堂には、アカデミーが掲げるクラブ哲学が壁一面に張り出されおり、そこには年齢ごと、ポジションごとにクラブが求める能力が細かく記載されている。

 「クラブは、チームとしての成功をシーズンの勝ち星ではなく選手のパフォーマンスを細かく分析して判断しています。パフォーマンスが高まれば、必然と結果はついてくるという考え方です。このクラブ哲学は、昨シーズンに更新されたものですが、細かな条件を一つずつビデオ化して、ウェストハムの選手に求めるプレーを映像にまとめています。クラブ哲学に沿った指標をもとにして試合後にビデオ分析もすすめています。ビデオ活用は非常に発達しており、すべてのトレーニングが撮影され、クラブ全体で練習内容がビデオ共有できるようになっています」

 チーム分析官としてインターン終了後は、ヨーロッパ内でのクラブで就職活動を行っている岡田氏は、日本人指導者としてのキャリアの築き方を模索している最中だ。

 「U-18のチームに帯同することで、プレミアリーグのアカデミーのトップレベルを直に見ることができていることは大きな財産になっていると思います。ここでやっていることは、ヨーロッパの最前線の標準レベルにあります。引退した選手にはできない分析スキルを身につけることは、クラブに雇用してもらえるチャンスでもあるので、まずはそこに焦点を当てたいと思います」

 育成組織の重要性は様々な場面で議論されており、イギリス国内のクラブチームもドイツやスペインの育成レベルに追いつくために独自のやり方を築いている。日本の育成組織が、欧州のすべてを真似る必要性はないだろうが、春休みの期間に多くの日本サッカー関係者が、海外の育成事情を実感することは、費用はかかるが日本サッカーの未来にとって非常に有意義な時間である。(竹山友陽=ロンドン通信員)

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