×

【コラム】海外通信員

ウルグアイでのW杯開催は実現できるのか

[ 2016年4月11日 05:30 ]

 3月末、FIFAのジャンニ・インファンティーノ会長がウルグアイを訪れた。到着時には同国のサッカー協会(AUF)会長とディエゴ・フォルランが出迎え、ぺニャロールのスタジアムオープニング式典にも招待され、タバレ・バスケス大統領とも面会するという歓迎ぶりだった。

 これまでウルグアイの人々は、どちらかというとFIFAに対して嫌悪、もしくは拒否感を抱いていた。以前、同国のベテラン記者から、その理由のひとつとしてこんな話を聞いたことがある。

 「ウルグアイが世界チャンピオンになった回数は4回。1930年と1950年のW杯で優勝する前に、1924年と1928年の五輪で金メダルを取っている。1920年代までは五輪が唯一の世界選手権だったのだから、当時のタイトルを含めて当然というのが我々の考え。ところがFIFAはW杯が存在する以前の五輪優勝を世界タイトルと認めない方針を貫いているんだ。まあ仕方がないだろうね、FIFAにとってウルグアイは所詮小さな国。彼らにとって、マーケティングの対象にならないような国はどうでもいいのさ」

 そんなひがみは、W杯組み合わせ抽選会でいわゆる「死のグループ」に振り分けられる度に膨らみ上がり、一昨年のW杯でスアレスの噛み付き行為に対して大会追放、さらに9試合の代表公式戦出場停止という厳しい処分が下されたことで、FIFAに対する国民の不満は怒りと化した。ウルグアイの人に「FIFAをどう思うか」と聞けば、かなり高い確率で「大嫌い」という答えが返ってくるだろう。

 そのような背景があるだけに、2月にFIFAの会長選が行なわれた時、AUFが全面的にインファンティーノを支持し、南米の他の国々にも同氏への投票を促したことは、「新しいFIFA」に対するウルグアイの期待度がわかる。選手や監督からの支持率が圧倒的に高かったインファンティーノなら、汚れきったFIFAを改善してくれるだろうという望みを抱いているのだ。

 さて、インファンティーノ会長の訪問を歓迎したウルグアイのサッカー関係者たちは、この機にかねてから抱いていたアイデアをFIFAに正式に提案した。2030年W杯をウルグアイとアルゼンチンで共催するという計画だ。

 ご存知のとおり、ウルグアイは1930年の第1回大会の開催国である。その100周年にあたる記念すべき2030年大会で、もう一度W杯を開催するという夢を長年抱き続けてきた。しかし、参加国の数がどんどん増えるW杯は今後も規模の拡大が計画されており、もはやウルグアイにとって単独開催は物理的、経済的にも無理な話。そこで隣国アルゼンチンと手を組んで、共催に向けて両国間で同意に至った。

 2030年大会開催が現実的なものに見え始めたのは、ぺニャロールのスタジアム完成が大いに関係している。というのも、ウルグアイにはこれまでFIFAの国際基準を満たすスタジアムがなく、今回出来上がったぺニャロールのホーム「Campe?n del Siglo」(世紀のチャンピオン)が最初のFIFA標準スタジアムとなるからだ。

 第1回大会の会場となった6万人収容のエスタディオ・センテナリオは、今も1930年当時のままの姿で現役だが、FIFAが定める控え室や駐車場の大きさ、メディア用スペース、VIP接待のためのスペースといった部分で大掛かりな改修が必要となる。すでに改修工事の費用を負担するスポンサー企業が決まり、デザインを公募して「原型維持」を条件にリフォームされる予定だ。

 それでも、「今時のW杯」を開催するためには、ウルグアイとアルゼンチンを合わせて12のスタジアムが必要となる。ウルグアイのバスケス大統領と会談したインファンティーノ会長は、「ウルグアイ側に最低でも4つのスタジアムを擁すること」が必須条件であると伝え、そのために「とにかく投資が必要」だと述べた。

 では、あと2つのスタジアムはどこになるのか。ぺニャロールのライバルであるナシオナルも、ホームスタジアムの拡大工事を行なうことが決まっているが、宿泊面のキャパシティを考慮した場合、首都モンテビデオだけに3つの会場(センテナリオ、ぺニャロール、ナシオナル)が集中するわけにはいかない。かといって、FIFA基準を満たすための改修工事ができるスタジアムを擁し、空港、そして周辺に宿泊施設が整っている都市がそれほどたくさんあるわけではなく、候補として考えられるのはリゾート地プンタ・デル・エステがあるマルドナード市くらいだろう。世界遺産コロニア・デル・サクラメントにもスタジアムがあるが、こちらは改修というより立替が必要かもしれない。

 だが、4つのFIFA標準スタジアムを揃えたとしても、人口340万人の小さな国では宝の持ち腐れとなってしまう。大会後の厳しい現実を考えると、ウルグアイでは3会場が精一杯ではないだろうか。あれこれ考えているうちに、一体いつからW杯がこれほど大規模な大会になったのかと思ってしまう。参加国が増えるのは喜ばしいが、会場を増やして選手やサポーター、メディア関係者の移動距離と費用まで増やすことにどうしても疑問を抱いてしまうのは私だけではないだろう。

 インファンティーノ会長が今後、W杯の参加国を40カ国に増やす意向でいることについて、私の知り合いのフリーランスカメラマンの方が「数を増やすより、質の高い試合が観たい」と呟いていたが、全く同感である。W杯100周年を記念する大会こそ、質の高いものであることを願う。(藤坂ガルシア千鶴=ブエノスアイレス通信員)

続きを表示

バックナンバー

もっと見る