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【コラム】海外通信員

オランダの将来に光が差した

[ 2016年4月2日 05:30 ]

<オランダ・イングランド>前半14分、城内のビジョンにクライフ氏の映像が映し出された
Photo By AP

 前途に光明が見出された。3月末のインターナショナル・ウィークは、オランダ代表にとって意義深い1週間だった。3月25日にアムステルダムでフランス代表と、29日にはウェンブリーでイングランド代表と親善試合を行った。オランダはこの夏に行われる欧州選手権には予選で敗退したために出場できない。一方、大会開催国フランスと最近評判を上げてきているイングランドは優勝を狙うチームだ。彼らにとってもちょうど良い本番前のスパーリングパートナー。それが現在のオランダの立ち位置だ。

 フランス戦の序盤は、まさに凋落したオランダ代表のイメージそのままだった。前半6分にグリーズマンに直接FKを決められると、13分にもセットプレーからジルーに押し込まれた。アムステルダム・アレナで行われたこの試合では、3月25日に亡くなったヨハン・クライフを偲んで背番号にちなんだ前半14分にスタジアムの観客が総立ちとなって拍手が送られた。だが、その前にオランダ代表は0?2のビハインドにされるという情けない姿を晒していたのだ。

 後半に入ると、オランダがゴールを決めた。2分にFWルーク・デヨングがクロスに合わせて流し込んだ。頭で合わせ損ねてハンドしていたように見えたが、ゴールが認められた。さらに41分にもCKからMFアフェライが右足でミドルシュートを決めて2?2の同点に。だが、43分にフランスのMFマトゥイディに決められて2?3。追いすがったが、地力の差を見せつけられる形で再び突き放されて敗れた。

 この試合では、オランダは5?3?2と、5バックを採用。中盤にはベテランのスナイデルを起用するなど2014年W杯ブラジル大会で3位になった時のなごりを残した布陣だった。だが、将来につながる何かを見出したようには見えなかった。

 29日のイングランド戦では、オランダ代表は世代交代をさらに推し進めた4?3?3で臨んだ。GKには、練習中にフンテラールと接触して負傷したシリッセンの代わりにPSVで存在感を高めているズートが起用された。MFには、スナイデルに代わってアヤックスの俊英バゾール。さらにセンターフォワードには今季エールディビジで20得点と得点数トップに立つAZのヴィンセント・ヤンセンが入った。バゾールが19歳、ヤンセンが21歳と劇的に若返った。

 先制したのは、イングランドで、前半40分にレスターで活躍する新10番、FWバーディーがあっさりと決めた。だが、後半5分にヤンセンがPKを決めて1-1の同点。さらに31分、ペナルティーエリア内の左寄りの深い位置へとスルーパスが出る。猛然とヤンセンが走り込んでDFを吹き飛ばしてマイボールにすると、逆サイドへとグラウンダーのマイナスのパスを送る。フリーとなっていたナルシンフがていねいにゴールに蹴り込んで1?2と逆転。そのままオランダが勝利した。

 オランダ代表の試合内容がそれほど良かったわけではない。だが、終わってみれば、この日、スタメンとして始めて起用されたFWヤンセンが1ゴール1アシストと勝利の立役者。バゾールもまずまずのプレーを見せ、GKズートはクロスの処理、シュートへの対応等、全ての面で安定したプレーを披露した。

 ヤンセンはかつてフェイエノールトユースに所属していた選手だ。トップチームで出番がなく、2部のアルメーレ・シティというクラブに出された選手だった。2部で13~14シーズンに10得点、14~15シーズンに19得点。そして今季、1部のAZに引き抜かれた。今季序盤はリーグでは得点が少なかったが、一方でヨーロッパリーグやオランダの年代別代表では着々とゴールを重ねていた。そして、今年に入るとリーグでも本格的にブレーク。徐々にエールディビジレベルでは手が付けられないFWになりつつある。今となってはユース時代に放出してしまったフェイエノールトの見る目のなさが批判されている。

 19歳のバゾールは、この世代では一番のタレントと目されている。すでにアヤックスのレギュラーなのだから、A代表入りも妥当だ。フランス戦では、スナイデルに代わって途中出場していた。とは言えまだ10代。フットボール・インターナショナル誌からのフランス代表の選手たちを知っていたかという質問に、「プレイステーションでゲームをやっているから知っていたよ」と19歳らしい回答をしていた。「いつもはバルセロナを使うんだけど、パリ・サンジェルマンを使うこともあるんだ。だから、例えばフランス代表だとマトゥイディとか操作することになるよね」

 フランス戦では負けたものの、スタメン出場したイングランド戦では逆転で勝利。親善試合であっても「勝利が勢いになる」とバゾール。「簡単ではなかった。でも自分たちは上手くプレーして、結果も良かった。これが自信をもたらす」

 イングランド戦には、ファンペルシも、ロッベンも、スナイデルもいなかった。ロッベンの代わりは確かにまだいない。後釜の第一候補メンフィス・デパイは所属するマンチェスター・ユナイテッドでも代表でもあまりにも好不調の波が大きすぎる。だが、ファンペルシの代わりに21歳のヤンセンが、スナイデルの代わりに19歳のバゾールがその存在をアピールし、結果も出した。

 オランダはこの夏の欧州選手権には出場しない。だが、夏が過ぎればすぐに次のワールドカップ予選が始まる。険しい道のりが予想されるが、それでも暗雲が立ち込めていたオランダの将来に光が差した。このイングランド戦はオランダにとってターニングポイントとなる試合だったのかもしれない。(堀秀年=ロッテルダム通信員)

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