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【コラム】海外通信員

ブラジル代表は生き返るか

[ 2015年4月20日 05:30 ]

ブラジル代表ドゥンガ監督
Photo By AP

 W杯ブラジル大会での敗退以来、ブラジル代表は生き返れるか心配している世界のブラジルサッカーファンがいる。しかし、ブラジル代表は何もW杯ブラジル大会で死んだわけではないし、ブラジルはサッカーのクオリティを失ったわけでもない。

 現在、セレソンを率いるドゥンガはこう言う。

 「W杯ブラジル大会の敗退で選手が失ったものは自信だ」

 新たな戦術やシステムだけにとらわれるよりも、今のブラジルに本当に必要な事は選手達が自分たちのサッカーに自信を取り戻す事だと。ドゥンガが監督に就任して、これまで8試合行ってきたが、負けなしだ。

 「選手はドイツ戦後、多くの厳しい批判を受けた。今は、こうして勝利を積み重ねる事で自信を取り戻しているところ。落ち込む事なく平静さを取り戻そうとしている。選手達に試合をして勝つ事で余裕を感じさせたい。セレソンはいい方向に進んでいる。
もちろん代表というのは長い時間を過ごしてチームを作れるものではない。選手を集めて試合させるもの。こちらの要求に応えられるかどうかはやってみないとわからない。でも、私は彼らに信頼を預けて試合に送り出すのだ

 ドゥンガが代表監督に選ばれたのはイノベーションや改革を基準にしなかったからだ。選手たちに不足はない。なんやかんや言っても、欧州のビッグクラブからブラジル人選手を無くしてしまったらリーグは成り立たないのが現実だ。それほど、各国に主力となるブラジル人選手は散らばっている。もちろん、何十人ものロマーリオ、ロナウド、リヴァウド、ロナウジーニョがひしめき合っているわけではない。世界最優秀選手賞を取れるほどの実力者は今のところネイマールだけ。しかし、ネイマールに依存しすぎたことから教訓を学び、ドゥンガは“チーム”を作ろうとしている。

 チームをまるっきり変えるわけではなく、W杯ブラジル大会の選手たちも引き続き起用しているし、ロビーニョのようなベテランの経験も生かそうとしている。W杯で辛い経験をした選手たちは精神的に強くなったはず。また、新たな人材も取り入れている。

 中でも注目なのは、チリ戦で貴重な1点を決めたフィルミーノ。23歳、1899ホッフェンハイムのMFだ。ブラジル、サンタ・カタリーナ州のクラブ、フィゲレンセで、17歳でプロになり、19歳でドイツの1899ホッフェンハイムに移籍した。

 ドゥンガはインテルナシオナルの監督をしていた時、既にフィルミーノに注目して、「ゴール感覚に優れていると判断して、インテルのフロントに獲得して欲しいと頼んだ事がある」

 フィルミーノは「いい結果を残せて嬉しい。また、セレソンに呼ばれたい」と期待に胸を膨らませている。

 ちなみに、これまでの8試合はすべて親善試合で、ブラジル国外で行われているため、国内の関心はそれほど高くない。ゴールデンタイムに生中継があるわけでないので、見られない人が多い。
静かな船出だが、それくらいでちょうどいいのかもしれない。今は、じっくりドゥンガにチームを作ってもらうことが大事だ。欧州事情にも通じているドゥンガは各クラブとの調整、良好な関係を築く事で情報の共有もできる。

 考えてみると、2010年W杯南アフリカ大会の敗退後、ドゥンガが代表監督を解任されて、新たな人材のマノ・メネーゼス監督が就任した時、大きな期待をしたものだ。そして、マノがクビになり、フェリッポンが就任した時はさらに大きな期待が持たれた。

 今回、ドゥンガになってこれらの期待は取りざたされなかった。あれほどメディアを敵にしていたドゥンガだが、こうして勝利を積み重ねていることで、好印象になっている

 「2010年W杯のドゥンガのチームは酷評されるほど悪くなかった。ドゥンガを引き続き2014年まで使うべきだった」という声まで上がっているほど。今は、もっと冷静になってドゥンガを再評価する流れになってきている。

 チリ戦が終わったところで、ネイマールは「今のセレソンは何にも恐れない気持ちを持っている。もちろん、今の時点では成長過程にあり、守備にしろ攻撃にしろ、まだまだ改善しなければいけないこともある。しかし、こうやって練習を積み重ねていけば強いチームになっていく。7-1の敗戦は誰にもとっても辛い事実となったけど、アクシデントであり、それがすべてではない。W杯ブラジル大会でついてしまったセレソンへのネガティブなイメージを払拭しようと選手達は取り組んでいる。ドゥンガ監督になって8試合、全勝している。うち4カ国はコッパ・アメリカで戦う対戦国だ。だからといって、優勝候補だと調子には乗らないようにしている。ただ、僕たちはいい試合をして、もっと良くなりたいだけなんだ。新しいチームの編成は、今のところいいスタートを切っている

 ネイマールは変わらずセレソンに献身的に取り組んで、その闘志は国民の心を捉えている。

 さて、6月11日から始まるコッパ・アメリカがセレソンの最初の正念場になるだろう。ただ、コッパ・アメリカの優勝自体に大きな希望を抱いているわけではない。ブラジルはコッパ・アメリカに勝つ事にはもう慣れっこになっている。問題は、コッパ・アメリカでできたチーム作りをどうW杯までつなげていくかだ。

 今のところメディアも勝利続きでドゥンガを叩く事もできないが、コッパ・アメリカでは何が起きることか…。(大野美夏=サンパウロ通信員)

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