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【コラム】海外通信員

30チームによる1部リーグは成功するのか

[ 2015年2月6日 05:30 ]

 今月、アルゼンチンでは新しいリーグ戦が始まる。「新しい」のはシーズンそのものだけでなく、前例のない斬新な形のことを指している。というのも、参加するチーム数が昨年までの20チームからなんと30チームに膨れ上がるからだ。

 「30チーム」とは、実はものすごい数字である。1部リーグに30チームが属している国は、世界中を探してもおそらくアルゼンチンだけだろう。

 では、90~91シーズンから24年間続いてきた20チームによる2期制のリーグ戦に終止符が打たれ、このような改革が行われることになったのはなぜか。そして実際、どのようにして30チームによるリーグが行われるのか。今回はそれらについて、簡単に説明したいと思う。

 そもそもアルゼンチンで2期制が起用されることになった理由は、強豪以外のクラブにも優勝の可能性を与えるためだった。およそ5か月半の間に行われるわずか19節で決着がつけられる短期決戦となるため、チーム力とフィジカルコンディションさえ維持することができれば優勝のチャンスがある。この結果、昨年までの47期のうち、5大クラブ以外のチームが優勝した回数は約3期に1度の頻度となる17回。下部組織で育てた選手たちを中心にトップチームを築くことでチーム力の安定を図り、8度の優勝を遂げたベレス・サルスフィエルドの目覚しい躍進や、ラヌース、バンフィエルド、アルセナルといった小さなクラブがそれぞれ創設以来初となるリーグ制覇を成し遂げたのも、短期決戦のおかげだった。

 19試合で優勝が決まるということは1試合ごとの勝点の比重も大きく、開幕戦から1ポイントたりとも落とせない熱戦が展開される。また、1シーズンに2チームが優勝することは半年おきの祭典を意味し、サッカー界全体の活性化にもつながっていた。

 ところがやがて、強豪が頻繁に2部降格の危機に瀕するという現象が表れ始めた。同じく短期決戦となるカップ戦との掛け持ち、クラブ育ちの若手の海外への売却、多額の資金を投じる大掛かりな補強などがチーム力の低下を招き、下位で低迷したままリーグ終盤を迎えることになり、実際にリーベルプレートとインデペンディエンテが降格の屈辱を味わっただけでなく、ラシンやサンロレンソも2部落ちの危機にさらされた。

 そこで、昨年7月末に急死するまで35年間にわたってAFA(アルゼンチンサッカー協会)会長を務めていたフリオ・グロンドーナは、生前、リーグ方式の改革について真剣に考え、1部リーグを30チームに増やすというアイデアを発案し、可決させた。表向きの目的は「リーグ戦の連邦化」で、1部リーグ参戦チームがブエノスアイレス州周辺に集中している現状を全国規模、すなわちより連邦的に拡大するというものだったが、実際はアルゼンチン全土のクラブから支持を得るためと、強豪の降格をこれ以上繰り返さないための苦肉の策だったのである。

 こうして昨年末、2部から10チームが昇格を決めたのだが、出揃った30チームの内訳を見てみると、相変わらずブエノスアイレス州周辺のクラブが過半数(20チーム)を占めていて、ちっとも連邦化されていないことがわかる。

 さて、画期的なアイデアを残して他界したグロンドーナだったが、30チームでどのようにリーグ戦を行なうのかという具体的な案については全く考えていなかった。そのために昨年末、各クラブの代表者によって構成されるAFA理事会は幾度にもわたる会議を経て、2月中旬から11月上旬まで総当たり戦を行なうということで意見が一致したが、それでは各クラシコがどちらか一方だけのホームで行われることになり、チケット販売による収入が公平ではなくなってしまうことから、クラシコだけはホーム&アウェー方式で行われることに。このため、第24節は「全試合がクラシコ」という信じられない組み合わせになっている。

 今年は6月11日から7月4日までチリでコパ・アメリカが開催されるため、その期間はリーグも中断となるが、とにかく1シーズンかけて1チームが29チームと対戦するという仕組みがどのような結果を招くのか、現時点では想像がつかない。メディアの大半はこのアイデアを「愚案」と評しているが、案外面白いかもしれないし、今までなかったようなドラマチックな展開になるかもしれない。一斉にクラシコばかりが行われる第24節についても、今は警備面での不安から酷評されているが、国中が沸き上がる週末となることは間違いない。

 11月8日に最終節が行われたあとは、来年のコパ・リベルタドーレスとコパ・スダメリカーナの出場権をかけたリギージャがそれぞれ開催されることになっている。30チームによるリーグ戦と、23年ぶりに復活するリギージャは果たして興行的、サッカー的に成功するのかどうか。その答えは12月までお預けとなる。(藤坂ガルシア千鶴=ブエノスアイレス通信員)

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