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【コラム】海外通信員

チェルチ 不在の本田からポジションを奪えるか

[ 2015年1月10日 05:30 ]

アトレチコ・マドリードからACミランに加入したアレッシオ・チェルチ
Photo By AP

 「本田の離脱?1カ月に渡って彼が離脱するのは、我々にとっては堪えられる。しかしその代わりは、チームにいる選手の中から見つけ出す。アウトサイドの選手を外から補強するようなことはしない」

 11月末、ミランのガッリアーニ副会長はうそぶいた。定位置を確保する本田圭祐がアジアカップ参戦でチームを離れるため、穴埋めをどうするのかということはイタリアでも大きな関心事となっていたが、補強については否定していた。もっとも移籍市場に関して、この人の発言を言葉通りに受けてはいけない。蓋を開けてみれば、彼らは大物のアウトサイドを早速補強したのである。

 アレッシオ・チェルチ。高速のドリブル突破を得意とし、シュートセンスも高い左利きのイタリア代表である。その突破力はローマの下部組織時代から高く評価されており、一度スピードに乗せると誰も止めることが出来なかった。性格的にはムラっ気で、才能の割に調子が安定せずにチームを転々としたが、2012年から加入したトリノで遅まきながらブレークした。特に昨シーズンは、13ゴール11アシストと大活躍しW杯ブラジル大会のメンバーにも選ばれた。

 昨年夏には移籍市場での注目の的となり、当然のように各クラブの争奪戦へと発展。その中にはミランも参戦しており、「チェルチを獲得するので本田は活躍の場を失うだろう」と報道されていたほどだ。結局は1600万ユーロの移籍金でアトレチコ・マドリードへ行くことになったが、彼らの思いは約5カ月後に成就した。チェルチは新天地で満足な出場機会を得ることができず、移籍を希望。そこにすかさず、ミランは話をまとめた。チェルシーからレンタルでミランに移籍していたフェルナンド・トーレスを完全移籍させてミランの選手とし、相互レンタルという形でアトレチコ・マドリードに出し、移籍金はおろかレンタル料も発生しない形でチェルチを手中に収めたのである。「我々はこの3年間、ずっと彼のことを欲しがっていた」4日、練習場ミラネッロを訪問したベルルスコーニ会長はそう語っていた。

 トリノで13ゴールを挙げた昨シーズンは2トップの一角としてプレーしていたチェルチだが、ミランでは本田の抜けた右アウトサイドにあてがわれることになるだろう。本来のポジションはこちら。ピッチの外側に大きく張り出してボールを受け、スピードで縦を破ったのちに、左足を駆使してエリアの外から中へとドリブルで切り込んでいく。端的にいえば、自力でディフェンスをこじあける突破力が彼にはあるのだ。他方本田は、周囲とのパス交換からスペースへと飛び出しゴールへと絡む。それを寸断されると試合から消えてしまい、事実相手に対策を打たれてノーゴールが続いた彼にとっては、自らにない強味を持つ強力なライバルの出現を意味する。

 もっとも、チェルチがインザーギ監督の戦術にいきなりフィットできるかどうかは別問題だ。ゴールを挙げられないときでも本田は攻守の両方を勤勉にこなしており、特にナポリ戦、ローマ戦では2シャドーの一角として信頼を持って送り出されていた。アトレチコ・マドリードで半年近く不遇を囲ったチェルチが、これをこなせるだけのコンディションを保っているという想像はしにくい。だが、攻撃的な選手はゴールへの絡みで評価される。もしチェルチの個人技が点につながり、チームで信頼を得たら、本田はアジアカップから帰還後にポジション争いを一からやり直さなければならなくなる。

 「結局点を取らないと、このチームの10番としては生き残っていけない」。日本に戻る前の最後の試合となった先月20日のローマ戦後、本田はそう話していた。日本代表でも同じ右FWとしてプレーすることになるであろう彼が、アジアカップでどれだけ得点感覚を研ぎ澄ませてミランに戻ることができるか。オーストラリアでのプレーは、その後の彼の運命をも左右することになるかもしれない。(神尾光臣=イタリア通信員)

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