×

【コラム】海外通信員

2014年ブラジルW杯の年が終わろうとしている

[ 2014年12月19日 05:30 ]

24年ぶりのW杯優勝に喜ぶドイツ代表の選手たち(AP)
Photo By AP

 ブラジルサッカーの2014年シーズンが終わろうとしている。ブラジルは日本と同じく欧州シーズンと異なった独自のシーズン制を取っており、1月からシーズンが始まり、12月に終了する。今年は、ブラジルサッカーにとって激動とまではいかないが、一つの節目になった1年だった。

 スタジアム建設、インフラ整備、治安などさまざまな心配がされたW杯ブラジル大会だったが、試合の当日にはテレビ中継ができるよう整い、試合が滞りなく行われた。どうしても間に合わず仮設の部分もあったがどうにかなったし、スタジアムが崩れることなく、けが人が出ることもなく大会は終了した。

 街の中の治安に関しても大暴動が起きることもなく、観光客を巻き込んでの大惨事も起こらなかった。細かな不便や事件はあったが、大きな問題は幸いにも起こらなかった。ブラジル的には大会は大成功に終わった!と言える。

 一事が万事、ブラジルではこういった調子で何も起こらなかった時はそれで良かったで済ませてしまうのだが、W杯もそんな感じで終わってしまった。

 W杯が残してくれた遺産は、莫大な費用かけて作られたスタジアムだ。公費の使い道に批判は噴出したが、やはりきれいなスタジアムで試合を観るのは気持ちがいいものだ。プロサッカーが盛んでない地域のスタジアムは、維持費に苦しむことになりそうだが、それは最初からわかっていたこと。サッカー熱の高い地域のサポーターにとっては、これまではコンクリートの塊のようなスタジアムで、お客さんとしての扱いというよりも、来たかったら来てみろ的扱いを受けてきたことから考えると、スタジアムに行く楽しみが膨らんだことはW杯の良い遺産と言える。

 サンパウロ市は、W杯のオープニングゲームの開催スタジアムになったコリンチアーノンチャンスアリーナが新設されて大いに盛り上がったが、コリンチャンスのライバルクラブであるパルメイラスもW杯には直接関係なかったが、ホームスタジアムを新設した。これまでコリンチャンスは自スタジアムを持たず市営スタジアムを使用し、市内のダービー戦はサンパウロFCの巨大スタジアムモルンビーが使用されたものだった。が、一気にサンパウロ市のスタジアム勢力図は変わった。

 サンパウロ市を代表するスタジアムとしてブラジル代表の試合は全て行われたモルンビーは、W杯前の壮行試合となったブラジル対セルビア戦が最後の試合になったと言われている。同市内のライバルチームたちが最新のホームスタジアムを持ったのを横目に、これまで優勢を誇ってきたサンパウロFCはモルンビーに屋根をつける案を練ったりするが、改修費に莫大な費用が必要ということで簡単にことは進まないようだ。

 ここで注目なのがパルメイラスだ。パルメイラスはパルキ・アンタルチカ・スタジアムを完全に取り壊し、同じ場所にスタジアムを新設した。コリンチャンスと違い市内の中心地に位置する好条件で、この先サッカーゲームだけでなくコンサート会場にも使用できる。立体駐車場が併設され、隣にはショッピングセンターもあり、利便性はこの上ない。

 ただ問題は、肝心のチームが不調なことだけ。11月に行われた新スタジアムのこけら落としも、黒星スタートとなってしまい、全国リーグは最終節まで2部降格の危機にさらされた。ぎりぎり首の皮一枚のところでなんとか1部に留まったが、新スタジアムにふさわしい戦いぶりを来年は見せて欲しいものだ。

 W杯準決勝でドイツに7-1の惨敗を喫したセレソンだが、ドゥンガが監督に返り咲き白星を重ねているが、予想通りといったところ。普通にやれば日本には余裕で勝てるだけの力は元々持っている。これといった目覚しいイノベーションを引き起こしていることもなく、国民の関心が集まっているわけではなし。W杯後は、盛り上がったブラジルサッカー改革論も声高には叫ばれなくなった。というのも、全国リーグの話題で盛り上がっていたから。全国リーグ一部の優勝はミナス・ジェライス州のクルゼイロが2連覇した。それでも、得点ランキングの一位は、W杯であれほど批判の集中砲火を浴びたフルミネンセのフレッジ。ブラジルサッカー全体におけるゴールゲッターの不在は続いている…。

 W杯の自国開催は確かに盛り上がったし、現代にマッチしたスタジアムの存在価値は高いが、ブラジルサッカーが激動した1年だったとは言いがたい。監督がすぐに交代される悪循環は続き、アタッカー不足は各クラブが抱える問題だ。模索は続く。(大野美夏=サンパウロ通信員)

続きを表示

バックナンバー

もっと見る