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【コラム】海外通信員

ボカ対リーベルのスーペルクラシコ

[ 2014年11月26日 05:30 ]

ボンボネーラでのボカ対リーベル戦(撮影:ハビエル・ガルシア・マルティーノ)
Photo By 提供写真

 その時、私は機上の人となっていた。

 11月6日に行われたコパ・スダメリカーナ準々決勝第2戦で、アルゼンチンのボカ・ジュニオルスがパラグアイの強豪セロ・ポルテーニョと準決勝進出をかけて戦っている最中、私は南米大陸を離れて一時帰国のため日本に向かっていたのだ。

 ホームのボンボネーラで行われた第1戦ではボカが勝ったものの1-0の辛勝だっただけに、アウェーでの第2戦で逆転されないかと気がかりでならなかった。私は特にボカのファンというわけではないが、夫がボカのオフィシャル・フォトグラファーを務めている関係から、どうしても好結果を望んでしまう。

 12時間の飛行のあと、経由地パリの空港に降り立つや、携帯の電源を入れてパラグアイに行っていた夫からのメッセージを確認した。「Gano Boca 4-1. Enfrenta a River en la semi」(4-1でボカの勝ち。準決勝でリーベルと対戦)という簡潔な報告を目にするや、動く歩道の上で飛び上がりたい気持ちになった。そう、ボカの永遠の宿敵リーベルプレートも順当に勝ち進み、なんと準決勝でボカ対リーベルのスーペルクラシコが実現することになったのだ。大会の規模こそ異なるものの、これは南米サッカーのファンにとって、チャンピオンズリーグの準決勝でバルセロナ対レアル・マドリードが行われるようなもの。大変な事態である。なのに、私はこんな時に限ってアルゼンチンにいない。

 準決勝第1戦までの間、アルゼンチン国内はボカ対リーベルの話題で持ちきりだったそうだ。知り合いのボカファンは、SNS上で「ワールドカップの決勝よりわくわくする」と呟いていた。100年以上もの間、クラブチームに対する愛情と忠誠心によって支えられてきているアルゼンチンサッカーにおいて、クラブレベルの決戦ほど重要なものはない。その「わくわく感」を体験することもできない自分をこれほど不憫だと感じたのは生まれて初めてだった。

 11月20日、ボンボネーラで準決勝第1戦が行われたときは、ネットで試合の経過を追うしかなかった。試合開始前、ボンボネーラは、ボカのサポーターたちが一斉に掲げた手持ち花火で煌びやかに輝いたそうだ。サポーターが飛び跳ねることによって揺れるスタンドも、この日はいつも以上に大きく揺れ動いたらしい。普段から一般人の想像を絶する盛り上がりを見せるボンボネーラが、スダメリカーナ決勝進出を賭けたスーペルクラシコの実現によって、観衆数万人の身体から放たれる膨大なエネルギーが衝突し合う異様な空間と化している光景を想像しながら、SNS上でゲームを追った。

 「幸い」と言ってはなんだが、この第1戦は0-0のドローに終わった。リーベルのホームであるエスタディオ・モヌメンタルで行われる第2戦までには私もアルゼンチンに戻っている。でも、ボンボネーラとモヌメンタルでは、盛り上がり様が大きく異なる。第一、リーベルのサポーターは、ボカのサポーターのように90分間休みなく歌い続けることをしない。劣勢になるとますます大合唱が起きるボンボネーラと違い、モヌメンタルではリーベルが押され気味になると静まり返る。こればかりは、いくらサッカーの結果で上回ろうとも、リーベルがボカに及ばない一面なのだ。

 さて、それはさておき、どちらが勝ってもアルゼンチンから出場しているクラブの決勝進出が保証されているのは嬉しいことだ。コパ・スダメリカーナは2002年からスタートした新しいトーナメントで、半世紀以上の歴史を誇るコパ・リベルタドーレスの価値に匹敵するまでには至らないものの、近年は各国のクラブが本格的に力を入れる傾向にある。優勝したチームには翌年日本で開催されるスルガ銀行チャンピオンズシップへの出場権が与えられることになっていて、かつてトヨタカップで世界王者決定戦のために遠い日本まで出向いていたプライドを今でも抱き続けるアルゼンチンのサッカーファンは、スルガ杯に独特の価値を見出している。

 もうひとつの準決勝を戦っているのはブラジルの強豪サンパウロとコロンビアの古豪アトレティコ・ナシオナルで、いずれも手強い相手。スーペルクラシコの盛り上がりでアルゼンチン勢が決勝前に燃え尽きてしまわないことを祈るばかりだが、果たしてボカかリーベルが優勝し、スルガ杯出場が決まった場合、私はアルゼンチンサッカー信奉者の代表として日本に行くことができるのだろうか。準決勝第1戦でアルゼンチンにいるべき時に日本にいたように、日本にいるべき時にアルゼンチンにいるようなことにならないと良いのだが…。(藤坂ガルシア千鶴=ブエノスアイレス通信員)

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