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【コラム】海外通信員

英国サッカー指導者ライセンス講習での問いかけ

[ 2014年11月8日 05:30 ]

講習やテキストブックでは、Fun(楽しむこと)とRespect(リスペクト)がたびたび強調されている
Photo By 提供写真

 もし、あなたがどこにでもある街クラブ(小学生年代)でコーチをしているとしましょう。大きなトーナメントの決勝戦を週末に控えて、チームはある問題を抱えています。その問題とは、自分のチームのエースストライカーのA選手を試合に出すことができないかもしれないということ。これまでに得点を誰よりも多くあげ、決勝まで導いてきた中心選手をピッチに送り出すべきか迷っています。なぜならば、コーチと選手たちとの間でルールを決めており、そのルールとは平日の練習に無断で欠席した選手は週末の試合には出場できないというもの。理由はどうであれ練習にこなかったA選手であるが、当日の朝に何食わぬ顔で現れました。他の子供たちや保護者たちも優勝したいという気持ちがあるので、なんとかA選手を使ってくれないかとあなたに直訴してきます。

 「さて、コーチであるあなたはどのような判断を下すべきだろうか?

 上記の質問は、イングランドサッカー協会が発行しているコーチングライセンスのレベル1を筆者が受講した際に最後の議論として投げかけられたものである。講師を務めたフロー氏の回答はあとで記載するとして、まずはFAコーチングライセンスについて説明しよう。

 FAコーチングライセンスのレベル1は、グラスルーツレベルのコーチやいわゆるお父さんコーチの方々のためにデザインされており、4回の講習と最終試験を行い1カ月ほどで取得できる。実技を学ぶことももちろんだが、コーチとしての基本的な姿勢を学ぶ場ともなっている。

 講習やテキストブックでは、Fun(楽しむこと)とRespect(リスペクト)がたびたび強調されている。とくに小学生年代は練習でも試合でもサッカーを楽しむことに重点が置かれ、徐々に挑戦できる環境を整えていきステップアップさせていくこと大事であるとされている。

 英国では、小学校1年生から真剣勝負のリーグ戦が毎週プレーできるすばらしい環境が整っている。が、その一方で13~16歳になると毎年13万人もの選手が競技から離れていく現状もある。スポーツイングランドの調査によれば、選手をやめていく理由の上位には、コーチや保護者からのプレッシャー、そしてサッカー自体を楽しめなくなっていることが挙げられている。

 これはスポーツ発展のためには大きな損失であり、若い選手の芽を摘みたくないと考えたイングランドサッカー協会は、U-7~U-10まではリーグ戦においても順位表をネットでも紙媒体でも発表しないという方針を打ち出している。また、保護者やコーチがピッチ脇で選手に向かって叫んでいる状況を省みるためのブラックユーモアがたっぷりと込められたビデオを講習の合間に必ず見せられる。

 ロンドン市内の街クラブ、ウェンブリーFCで少年サッカーの指導に携わってきたマルコ氏は、この問題について次のように語ってくれた。

 「6歳や7歳からリーグ戦をはじめて、勝敗にこだわった親とコーチのもとで10年ほど過ごせば、サッカーが楽しいものから違うものに変わっていき、彼らがピッチから離れていくのは理解できる。だからこそ、今わたしが指導しているチーム(U-9)では試合前に保護者に数分間の時間をもらっている。戦術的な指示はコーチの役割なので控えてほしいこと、その代わりに子供たちが失敗しても、のびのびプレーできる、よりポジティブな言葉をかけてあげてほしいと伝えている。それでも数試合もすれば、状況は元通り。またミーティングだ。ある意味、選手よりも保護者の育成もしている

 ここまで長くなったが冒頭のA選手の扱いに関する議題は、受講していたコーチのあいだでも意見は分かれたが、最後に議論をまとめたフロー氏の回答がやはり強く印象に残っている。

 「まず、はじめに理解してほしいのは、わたしはプレミアリーガーの話をしているのはなくて、街クラブの小学生の話をしている。プロと週末の子供の指導はつねに切り離して考えたほうがいい。ルールを破ってしまったA選手を使ったことによって、練習にはしっかりと参加していた1人が出場できなくなる。その2人が大人になったとき、コーチと選手のあいだにあったルールを破ってもよいという認識が選手たちに生まれる、そしてそれを忘れずに覚えているだろう。コーチは子供たちの模範となるべき存在であるべきだろう」(竹山友陽=ロンドン通信員)

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