×

【コラム】海外通信員

2強とその他、格差は埋められない? スペイン版サラリーキャップ制度

[ 2014年10月6日 05:30 ]

100億円を超える移籍金で加入したレアル・マドリードのロナウド(右)とベイル
Photo By AP

 2013年の初め、スペイン政府スポーツ上級委員会(CSD)とスペインプロリーグ機構(LFP)はリーガエスパニョーラ1部&2部クラブの債務削減を目的としてサラリーキャップ制度を導入することを決定した。その内容は、トップチームの予算を年間収入から練習場&スタジアムの維持費、社会保障費といったスポーツ面以外の費用を差し引いた額に制限するものであり、クラブは所属選手の年俸のほか、契約年数によって減価償却されていく選手獲得の移籍金も同予算内に収める必要が生じた。これによって各クラブのトップチームの予算は、年間収入の60~70%程に限られている。

 そして2014年夏、リーガではこのサラリーキャップ制度が大きな話題となった。代表的な例には、ヘタフェのペドロ・レオンが挙げられる。ヘタフェは売却に失敗した前レアル・マドリードMFの選手登録をLFPに求めたが、同機構はクラブのトップチームの予算を上回るとしてそれを認めなかった。飼い殺し状態となったP・レオンはスペインサッカー選手協会(AFE)とともにLFPを非難したが、選手登録は現在も認められておらず、CSDに訴えを起こしている状況だ。また、エルチェはエンソ・ロコ、ビクトル・ロドリゲス、クリスティアン・エレーラの選手登録のため、3選手に今季年俸の12%を来季以降に支払うことを了承させ、同チームの指揮官フラン・エスクリバも、年俸の一部(30万ユーロ)を今季に受け取ることをあきらめざるを得なくなった。2部に目を向ければ、ベティスがチュリをサラゴサに売却したことを発表したにもかかわらず、サラゴサが予算オーバーを指摘されたために、移籍は破談となっている。

 このような状況を危惧するのは、AFEの会長を務めるルイス・ルビアレスだ。現役時代にヘレス、レバンテなどでプレーした選手協会の代表は、選手の権利が侵害されていることのほか、各クラブの給与支出が20%程削減されており、債務を返済しているのがほかならぬ選手たちであると主張。「リーガ2部で素晴らしいシーズンを送った選手は国外へ向かう。スペインでは債務返済の手助けをさせられるんだ」と話している。

 確かに、リーガのサラリーキャップ制度は経営の健全化だけを目的としており、収入の低いクラブの給与支出はこれまで以上に抑えられ、戦力流出も顕著となった。これにより、以前から問題視されてきたチーム力の格差は広がるばかり。スペイン『マルカ』は先日に2014~15シーズンのトップチームの予算ランキングを発表したが、そこには深淵なる差が明示されていた。

1位バルセロナ 3億4790万ユーロ
2位レアル・マドリード 3億2800万ユーロ
3位アトレティコ・マドリード 1億500万ユーロ
4位セビージャ 7860万ユーロ
5位バレンシア 7300万ユーロ
6位アスレティック・ビルバオ 4990万ユーロ
7位ビジャレアル 4420万ユーロ
8位レアル・ソシエダ 3890万ユーロ
9位エスパニョール 3220万ユーロ
10位マラガ 2750万ユーロ
11位グラナダ 2280万ユーロ
12位セルタ 1870万ユーロ
13位ヘタフェ 1870万ユーロ
14位レバンテ 1700万ユーロ
15位ラージョ 1580万ユーロ
16位デポルティボ 1530万ユーロ
17位コルドバ 1420万ユーロ
18位エイバル 1280万ユーロ
19位エルチェ 1250万ユーロ
20位アルメリア 1170万ユーロ

 もちろん、各クラブが膨れ上がった債務を減らして健全な経営を行うことこそ、戦力を均衡させるための重要な一歩となる。だがメガクラブと弱小クラブの成長の歩幅があまりにも違い過ぎる現状に、もはや格差は埋められないとの声も存在する。スペイン『アス』の編集長アルフレッド・レラーニョは、そのような意見を声高に主張する一人だ。「バルセロナとレアル・マドリードの2強は国内リーグの競争力など省みず、スポーツ&財政の両面で至高の存在であろうとしている。彼らの充実ぶりは、リーグ戦のモデル自体を変えるところまできているんだよ。現在起こっていることは、20世紀初頭、スペインに地域リーグしかなかった頃と類似している。あの頃は地域毎の王者がスペイン国王杯に参加していたが、その後に国内リーグが創設された。その頃に起きた変化のように、欧州のメガクラブだけが参加するリーグ戦が行われるのも時間の問題だろう

 レラーニョが話す欧州スーパーリーグ構想は、もちろんスペインだけに依存することではない。しかしながらリーガでは、2強を相手にする場合に負けを覚悟して、戦力を温存するチームも現れるなど、リーグ戦の意義は確実に失われ始めている。この冬の時代が過ぎ、各クラブの財政が健全となった後、リーガに広がるのは豊穣、荒廃した景色のどちらだろうか。ただ、ここ1年で各クラブの負債総額は25億3500万ユーロから24億万ユーロに減少したのみ。競争力を枯らせていく厳しい冬は、まだ終わりが見えない。(江間慎一郎=マドリード通信員)

続きを表示

バックナンバー

もっと見る