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【コラム】海外通信員

川島 念願の欧州CL舞台

[ 2014年8月21日 05:30 ]

スタンダールのGK川島
Photo By 共同

 川島永嗣が大きなチャレンジの時を迎えた。ベルギーに渡って4年。常々、「日本人のGKとして初めてとなるチャンピオンズリーグ出場を果たしたい」と口にしていた。ベルギー1年目、海外での最初のクラブとなったリールセでの入団会見の時から目標としていたことだ。

 当時はエジプト人オーナーが付いて金回りが良くなったリールセの野望が眩しかった頃であり、上位進出も可能かと思われた。クラブの可能性もまた、川島が移籍を決めた理由のひとつだった。だが、事はそう簡単には運ばない。リールセは残留に四苦八苦する有様で、目標としていたプレーオフ1出場権内となる6位以内ははるかに及ばない。そんな状況にあっても奮闘していた川島は、個人としての評価を高め、2年を経たところでスタンダールへ移籍した。目標の一つが、チャンピオンズリーグ出場であったことは変わらない。

 昨季は優勝に限りなく近づいたものの、レギュラーシーズン後のプレーオフ1で失速し、優勝を逃した。同時に直接チャンピオンズリーグ出場する権利を逃したわけだが、2位だったことでチャンスはまだ残されている。8月20日、26日に行われるチャンピオンズリーグ・プレーオフに勝ち抜けば、本戦にたどりつけるのだ。

 プレーオフの相手はロシアのFCゼニト。スタンダールにとっては厳しい相手だが、やるしかない。川島にとって、少なくとも4年越しとなる悲願のチャンピオンズリーグ出場への最後のハードルということになる。

 勝負の時を迎えるわけだが、当のスタンダールの状態はというと、芳しくない。

 今季のスタートは、悪くなかった。7月25日のリーグ開幕戦ではシャルルロワ相手に3-0で完勝した。7月30日のチャンピオンズリーグ予備選3回戦第1戦、パナシナイコスとのホームゲームでは、0-0と手堅い結果を出した。8月2日のリーグ戦、コルトライクとのアウェーゲームでは、ローテーションで若手を多数起用。落ち着かない展開となったが、川島のPKストップなどもあって3-2で勝利している。そして、厳しいかと思われた8月5日のパナシナイコスとのアウェーゲームでも2-1と勝利、プレーオフ進出を決めた。この時点までは狙い通りに事は運んでいたのだ。

 だが、8月10日のリーグ戦、ゲントをホームに迎えた試合で決定力を欠いて0-1で敗れる。すると、続く8月15日のアウェー、モスクロン戦では2-5と大量失点で連敗してしまった。さすがの川島も、この日はノーコメントでスタジアムを後にしている。スタートから順調に来ていたスタンダールだが、8月20日のゼニト戦を目前に、急激に失速してしまったのだ。

 だが、この失速は、まったく予想されなかったことではない。そもそも、今季のスタンダールは難しいシーズンを迎えると考えられていたのだ。理由は、多数の選手の移籍だ。昨季チーム得点王のFWバチュアイはマルセイユへとステップアップして行った。バチュアイと2トップを組んでいたFWエゼキエルもカタールのアル・アラビSCへと移籍。ダブルボランチを組んでいたMFバンキエールがディナモ・モスクワへ、MFバイエンスはチャールトンへ移籍した。ガーナ代表としてワールドカップでもプレーした右SBオパレはポルトへ。センターバックのDFカヌもチームを離れ、アンデルレヒトへの移籍が濃厚とされている。優勝争いを展開した昨季のスタメンの6人が移籍でチームを離れたのだ。開幕前にスタンダールは大丈夫なのか、という声が上がるのが当然な状況ではあったのだ。

 一方で、補強も進めている。FCチューリヒから加入したセンターバックのDFテキシェイラは、早々にチームにフィットし、ファーストチョイスのセンターバックとして活躍している。前線には、昨季セルチックからリールセへとレンタルされていたFWワットを獲得した。また、ジェフ・ルイスというサイドアタッカーをASナンシーから迎え、さらに若手選手を引き上げるなどして駒を揃えつつある。ただし、十分ではなかったのだ。

 序盤こそ順調に滑りだしたスタンダールだったが、チャンピオンズリーグ予備選との掛け持ちによる過密日程の中でケガ人も出てきた。レギュラーとしてプレーしていた右MFカルセラ、左MFムジャンギ・ビアが故障。昨季終盤に台頭したボランチのデ・サールもケガで出遅れている。選手の大量移籍があった後だっただけに、ケガ人が重なったことで、好調なスタートから一転、底が抜けたかのように連敗を喫したのだ。クラブとしてはチャンピオンズリーグ予備選に重きを置かざるを得ず、リーグ戦においてローテーションで若手を起用すると脆弱さが顕著になる。特に両サイドバック、右のスタム、左のファン・ダメの両者が揃わなかった試合では、サイドをいいようにやられ、失点を重ねた。3-2と2失点したコルトライク戦、2-5で大敗したモスクロン戦がそうだ。また、ボランチとセンターバックの間のスペースを空けてしまい、活用される場面も目に付く。本来センターバックのベルギー代表のDFシマンを、試合途中からでさえボランチに回すケースが目立つが、バイタルをケアするための対応策として、現状もっとも妥当な策なのだろう。

 個人的に好調さを見せていた川島も、バイタルが空き、サイドを崩されることで、左右に振られて出るに出られず、GKとして狙いどころを絞れないままにシュートに打たれて失点する、そんな場面が多くなってきているのだ。

 川島にとって非常に重要なゼニト戦を迎える。チーム状態は、残念ながら良くはない。だが、4年越しの悲願達成へ、あとわずか2試合だ。川島としては1本でも決定的なシュートを止めるしかない。チームとしては、開幕当初のスタメンを並べることが出来るかどうかに掛かってくる。両サイドバックにスタムとファン・ダメ、ボランチにシマン。センターバックにアルスラナジッチとテキシェイラ。特に両サイドハーフのMFカルセラとMFムジャンギ・ビアがケガから復帰できるかどうかが鍵を握ることになりそうだ。(堀秀年=ロッテルダム通信員)

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