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【コラム】海外通信員

W杯ブラジル大会の開幕戦の舞台 サンパウロ・アリーナ(コリンチャンス・アリーナ)がついにオープン

[ 2014年5月20日 05:30 ]

完成したサンパウロ・アリーナ
Photo By AP

 約2億5000万人というブラジル第2位のサポーター数を誇るメガクラブ、コリンチャンスがついに待ち望んだホームスタジアムにサポーターを迎えた。サンパウロ州を代表する4大クラブ、サンパウロ、パルメイラス、サントスとコリンチャンスのうち、唯一ホームスタジアムを持っていなかったのがコリンチャンスだっただけに、サポーターたちの悲願がついに実現した瞬間だった。コリンチャンスアリーナが建ったサンパウロ市東地区はあまり開発が進んでいない低所得者も多く住んでいる地域だ。そこにそびえ立つ最新の輝くスタジアムをコリンチャンスサポーターは誇りを持って見上げたことだろう。

 ある意味、よく間に合ったとも思う。サッカー王国で2大サッカー都市といえば旧都リオデジャネイロと経済都市のサンパウロ。リオには1950年W杯決勝戦の舞台になったマラカナンスタジアムがあり、14年大会も決勝戦は当然のようにリオと決まった。そして、開幕戦はもう一つの外せない都市、サンパウロと当たり前のように決まったのだが、問題はスタジアムだった。リオにもサンパウロにもかつて10万人以上を収容している巨大スタジアムがあった。リオのマラカナンとサンパウロのモルンビーだ。ただ、両方とも古く、W杯のためには大規模な改修が必要だった。マラカナンは州立のため公費を使用しての改修には問題なかったが、モルンビーはサンパウロFCの私有であるため、改修費の調達に問題が生じることはわかっていた。

 結局、当初のモルンビー案は消え、しばらくの間、サンパウロには開幕戦にふさわしいスタジアムがないということで、W杯の会場から外されるとまで言われた。そんな中、ホームスタジアムを持っていなかったコリンチャンスがスタジアム新設に名乗りを上げた。2011年に正式にFIFAから開幕戦会場として認められ、5月から工事が始まって3年でスタジアムはほぼ完成、オープニングを迎えた。3年で、無から7万人の(W杯終了後は4万人になる)巨大スタジアムを作ったことはすごいことだ。工事開始から間もなくして3交替制で24時間工事を続けて、W杯に間に合わせたことは偉業に違いない。

 しかし、期日に間に合わせるためにという強引さはイコールいい加減さにもなった。5月18日、ブラジル全国リーグのコリンチャンス対フィゲレンセで、ついにコリンチャンスアリーナは一般に門が開かれた。3万6000人が歴史的瞬間に立ち会おうと集まり、芝生の状態もいい美しいスタジアムで試合は滞りなく行われた。だが、問題は予想通りあちこちに現れた。

 英語案内の未完成。スタジアムまでのアクセス未完成。歩道が雨でぐちゃぐちゃ(この日、サンパウロは一部の地域で大量の雹が降った異常気象だった)。駐車場は未営業。一部の仮設トイレ。スタジアム内の音声不備。音声と4G(日本のLTE)は動いたが3Gは動かず。道路案内の不備。

 これでは、FIFAレベルには到底及ばない今までのスタジアムと同じではないか。一番の驚きは、チケット販売の不備だ。ブラジルではサッカーの試合で指定席という考えがなく、セクターごとのチケット販売をしている。国際レベルであり得ない話なのだが、この試合はFIFAレベルのゲームということで全指定席としてチケットを販売した。しかし、販売されたチケットに書かれていた指定席と実際の配列に違いがあったのだ。

 アウェーチームのサポーターが手に入れたチケットには”P列”とあったのだが、実際には”M列”までしか存在していなかった。実在しない席のチケットを販売していたということだ。一体どうやってありもしない指定席に座れというのだ? 既に販売されているW杯チケットに同じことが起きないと言えるのだろうか?現場と運営側の連携不備が心配される。

 W杯までにはすべての問題は解決するということだ。スタジアムを完成させたことはすごいことだが、テストイベントを何回もする暇がなかったのは、実際に問題に向き合わなければいけない観客にとっては残念なことだ。開幕戦自体がテストイベントになるような不備が起きないことを祈るばかり。

 ところで、コリンチアーノが待ち望んだ歴史的瞬間は、フィゲレンセの勝利という悪夢になってしまった。公式戦初ゴールマーカーとして歴史に名を刻んだのはフィゲレンセのアウグスト。コリンチャンスとしてはとんだオープニングとなってしまった。(大野美夏=サンパウロ通信員)

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