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【コラム】海外通信員

英国のマッチデープログラムの未来

[ 2014年2月23日 05:30 ]

アーセナルの本拠“エミレーツスタジアム”にあるマッチデープログラムの売り場
Photo By 提供写真

 イギリス人にとって、スタジアム観戦の必需品といえば、Pie(パイ)、Pint(ビール1杯)またはTea(紅茶)、そしてProgramme (マッチデープログラム)だ。BBCのサイトでは毎シーズン開幕前にスタジアム観戦で掛かる費用が調査され、166クラブのシーズンチケットの価格、1試合単体でのチケット最高値と最安値、そして上記の必需品の価格を調査している。

 もっとも観戦費用が掛かるアーセナルでは、パイ3.5ポンド(560円) 、紅茶2ポンド(340円)、プログラム3.5ポンド(560円)で、合計9ポンド(1460円)。毎試合となるとけっこうな金額だが、ビッグクラブの試合前のスタジアム周辺では公式マッチデープログラムは数万部を売り上げ、世界中のファンにも数十万部が発行されている。

 100年以上も前から発行されているマッチデープログラムは、クラブがサポーターに対して発信する貴重な情報源になってきた。2月13日に行われたアーセナル対マンチェスターユナイテッドのマッチデープログラムは、全82ページフルカラーで、主な内容はベンゲル監督の今節に向けた手記ではじまり、注目選手のインタビューやプレー分析、対戦相手の紹介、ユースチームの試合レポートなど充実した記事内容だった。

 英国のマッチデープログラムは、どんなに小さなクラブでも数ポンドで販売され、認知されている。しかしここ数年は電子メディアの普及でクラブに関する情報はインターネット上でほとんど拾うことができるようになった。マッチデープログラムの売り上げが低迷しているクラブもある。アーセナルの宮市が出場した1月のU-21のチェルシー戦のスタンドで象徴的なシーンがあった。アーセナル側のサポーター席で大きな声を出して応援していた初老の男性は、年季の入ったユニフォームとマフラーを身にまとい、iPadでユースチームの情報をチェックしていた。

 フットボール・トゥーリストの著者スチュワード・フラーは、今後のマッチデープログラムのあり方について次のような見解を示している。

 「多くのスタジアムを訪れ、プログラムを買ってきたが、それが価格に見合ったものかどうかと聞かれたら、答えはノーだ。なぜなら事前にツイッターやウェブサイトで情報が得られる時代に、相手チームの分析を載せたところで、サポーターはすでに知っていて退屈するだけ。クラブ会長のインタビューや広告で埋まった記事などは誰も読みたくない。マッチデープログラム自体のあり方を問う時期にきている」

 マッチデープログラムをタブレット端末向けにデジタル化することは、多くのクラブで行われている。しかし、紙媒体を単に電子化するだけではなく、新たな付加価値をつけることがクラブには求められている。トッテナムは新しい取り組みとしてプログラム内に掲載されているゴールシーンの写真を専用のスマートフォンアプリを使ってカメラにかざすと、動画として再生できるコンテンツを取り入れた。

 サポーターがより観戦を楽しむことができるインタラクティブなものを提供する工夫は今後も求められていくだろう。フットボールプログラムは、この国に根づいた文化のひとつで、時代の流れに対して、価値をどのように生かしていけるかが試されている。(竹山友陽=ロンドン通信員)

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