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【コラム】海外通信員

インテルの未来 新オーナーの意向は?

[ 2014年1月2日 05:30 ]

インテル・ミラノのトヒル新会長(左)とモラッティ前会長
Photo By AP

 22日に行われたミラノ・ダービーで、インテルが頑張った。11月9日のリボルノ戦以来勝ちに恵まれず、前節のナポリ戦では4失点で敗れてしまったが、ミランに1―0で勝利し悪いムードを払拭。長友も後半途中からキャプテンマークを巻き、豊富な上下動でハッスルしていた。「サネッティにカンビアッソ、そして長友はこのチームのリーダーだ」目を細めていたのはこの日が初めてのダービー観戦となったインドネシア人オーナー、エリック・トヒル会長だ。

 43歳のエリック・トヒルは、インドネシアの投機会社『マハカ・グループ』のオーナー。2011年にインドネシア高級紙「レプブリカ」を買収し、さらには国内のテレビにラジオ数局を傘下に置くメディア王だ。また大学時代にアメリカで経済学を学んだ彼は、プロスポーツクラブの経営にも興味を示し、NBAのフィラデルフィア76ersの経営に参加。そして2012年からMLSのDCユナイテッドの筆頭株主も務めていた(インテル買収後、この2クラブは経営上のパートナーシップを結んでいる)。

 その流れから当然目についたのは、インドネシアでもメディアコンテンツとして高い人気を集める欧州サッカー。その中でも目に留まったクラブが、2012年にインドネシアをツアーで訪れたインテルだったのである。巨額負債の滅却と、UEFAファイナンシャル・フェアプレー対応に苦慮していたマッシモ・モラッティ前会長は身売りを決意。こうして11月15日、約5カ月間の交渉を経て名門は東南アジア人の手に渡った。

 注目すべきは、彼の就任後にクラブはどう変わったか、そしてクラブはどう変わるのかということだ。モラッティ会長は役員から退き、トヒルから名誉会長就任を要請されても固辞したが、それを受けクラブがただちに様変わりしたという様子はない。ピネティーナに行けば優秀な広報スタッフから、「ユウトは素晴らしい。そもそも日本人の皆さんはいつも礼儀正しいので私は大好きだ」と握手を必ず求めて来る門番のおじさんに至るまで、スタッフの顔ぶれに大きな変化はない。

 モラッティ前会長は身売りの時に、全スタッフに対し現状の維持を約束し、それはここまで守られている。「ブランカ強化部長がクビになる」という噂も立っていたが、それも少なくとも6月までは現状維持。人事異動に関しては、バルバラ・ベルルスコーニ女史がガッリアーニ副会長に反旗を翻し、強化スタッフの一新も噂されるミランの方が、派手に動いていそうな印象がある。

 そして今後の経営、強化方針そのものも、ここ数年続けられていた緊縮路線が継続される模様だ。トヒルは15日に就任会見で、こんな一言を口にしている。「世界の中で強く、美しく、また経営的にも健全なクラブのトップ10にインテルを押し上げたい」これはつまり、無闇な補強は避けつつマーケティング面を強化し、クラブの総収入をアップするという方針を意味する。

 欧州の他の強豪に例をとれば、経営基盤をじっくりと強化しCL制覇へと返り咲いたバイエルン・ミュンヘンや、将来性豊かな若手を育てるアーセナルなどの類い。中東やロシアのオイルマネーにより急激な強化を図ったチェルシーやパリSGなどの路線には走らなそうだ、という見方が強い。そもそもモラッティが湯水の用にお金を注げる彼らではなく、東南アジアの資本家を引っ張ってきた理由は「ビジネスで海外の市場を開拓し、収入増を図らなければクラブの明日はない」という思惑があったからだ。

 ただ、イタリアは結果が何より重視される土地で、「マーケティングをやりたくてもチームが弱ければ話にならないじゃないか」と投資を求めるインテルOBの声も上がっている。確かに3位に入ってCL入賞を逃せば、大会参加によるロイヤリティーやテレビ放送権料などの収入を失うことにも繋がる。

 そのため世間は、この冬の移籍市場でトヒルがどういう態度に出るのかということに注視している。メディアの間では、かつてナポリでマッツァーリ監督とともに闘ったパリSGのラベッシや、トッテナムで出場機会に恵まれていないラメラなどの大物FW獲得が噂されているものの、彼らの年俸や移籍金は高い。しかしFW陣にはケガ人が多く、現状パラシオが孤軍奮闘している状況。「クラブには目標を定めて欲しい。それによっては、当然今以上の戦力が必要になる」とマッツァーリ監督が語っているように、現状のままでシーズンを闘い抜くには不安が残る。

 現場の声をくみながら、経営への負担を抑えた強化戦力が果たして取れるのか。とくに日本の注目は本田が加入するミランへと注がれるだろうが、インテルもまた大事なターニングポイントを迎える。(神尾光臣=イタリア通信員)

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