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【コラム】海外通信員

二人の英雄 ロマーリオとロナウドの戦い

[ 2013年11月15日 05:30 ]

元ブラジル代表ロマーリオ(左)とロナウド。写真は11年12月23日撮影
Photo By AP

 W杯ブラジル大会まで7カ月。問題はあるにしても、各地で、急ピッチでスタジアムが建設され、空港が改修され準備を進めてはいるのだが…。

 販売されたチケットは大都市ほど人気が高く、第1回目の抽選に多くが外れ、第2回目の販売でもサイトにアクセスさえできないほどの大人気なのだが、W杯を歓迎する一方で、批判も沸きあがっていることは事実だ。大歓迎のロナウドと批判をするロマーリオ。2人のW杯の英雄がバトルを繰り広げている。

 2人の立場を説明しよう。ロマーリオは2011年から国会議員となり、庶民の味方となり権力に立ち向かっている。特にサッカー界にうずまく権力によって私服を肥やしている人々を怖いものなしで糾弾するところは、ロマーリオにしかできないことと非常に支持されている。

 一方のロナウドは、マーケティング会社を経営し、W杯組織委員会のメンバーとしてボランティアでW杯開催に向けての活動をしている。

 2人の立場は正反対のところにある。ロマーリオは、かねがね国からの優遇措置をもらうFIFAばかりが儲かり、ブラジル国民へのリターンが少なすぎることを訴え、スタジアムに使われている莫大な予算を、病院、教育、交通の改善など公共の福祉に使うべきだと国民の声を代弁してきた。まさに、コンフェデ杯中にブラジル中で巻き起こったデモと同じ主張だ。

 ロマーリオは、「FIFAはW杯ブラジル大会で約20億円もの利益を得ることになっている。しかも、ブラジル政府は税金に優遇措置まで与えている。選手育成の環境整備やその他のスポーツ、特に障害者スポーツ促進のために、その10%をブラジルに残すこととチケットの障害者枠を3万2千に増やして欲しいとの要望を国会議員の有志たちと共に出している」と、FIFAだけが儲かるしくみを批判した。

 一方、ロナウドは、スタジアム建設への批判に対して「病院を作ってもW杯はできない。スタジアムを作らなければ」とW杯擁護の立場を取ってきた。

 「W杯を開催することでブラジルは成長していくと信じて委員会のメンバーになることを引き受けた。海外からの投資も入ってきている。W杯はブラジルのためにいいことなんだ。自分は無償でW杯開催の役に立ちたいと活動している。批判だけするのは簡単だけど、実際に運営するのは簡単じゃない。自分はブラジルのためにW杯を成功させようとしている。行動を起こさずに、文句ばかり言って邪魔をしている人は愛国心がない」とロマーリオの名前は出さなかったが、暗にロマーリオを批判した。

 「W杯の開催は、各地で国民にリターンをもたらしている。クイアバの人たちも、W杯の試合がされることに誇りを持っている」と、W杯開催を大歓迎されていると言っていたが、クイアバの建設中のスタジアムには、反対のデモ隊が入ったこともある。

 W杯というスポーツの祭典を楽しみたい人たち、税金の使われ方に納得できない人たち。どちらの立場も間違っているわけではない。いったいどちらがより多くの愛国心を持っているのか。2人の英雄のバトルは続くが、庶民はW杯を楽しみ、かつ、福祉も整える。両方を望んでいるのだが…。(大野美夏=サンパウロ通信員)

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