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【コラム】海外通信員

アルゼンチンユースの反撃

[ 2013年11月7日 06:00 ]

 UAEで開催されているU―17ワールドカップで、アルゼンチンが準決勝に進出。同大会でのベスト4入りは、なんと10年ぶり(5大会ぶり)の快挙となる。

 90年代後半から2000年代後半にかけて、ユース世代で世界のトップレベルを誇ってきたアルゼンチンを知っているサッカーファンの方々には、意外だと思われるかもしれない。だが実際は、85年から始まったこの大会でアルゼンチンが優勝したことは一度もなく、最高の成績は3位(91年、95年、03年大会)に留まっている。

 U―20ワールドカップでは6つのタイトルを勝ち取って最多優勝国となっているアルゼンチンが、U―17世代ではなぜ結果を出せないのか。私はその理由について、ウーゴ・トカーリに聞いたことがある。トカーリはかつて、ホセ・ペケルマンと一緒にアルゼンチンのユースを何度も世界一の座に導いた実績の持ち主だ。

 トカーリ曰く「17歳以下の世代に求められるものは結果よりも内容」であり、「結果への執着心や勝負強さはプロになってから身につけていくもの」。「U―17代表として何らかのタイトルを勝ち取った選手たちが全員大成するわけではないという、明らかな事実を見てもわかること。プロデビューする前の世代は、勝利にこだわりながらも、ゲームとしてのサッカーをより理解し、チームでどのようなプレーをするべきか考える力を養うことが大切。だから我々がユース代表を指導していた頃は、U―15、U―17の世代に結果を求めたりしなかった」と語ってくれた。

 このような視点からとらえた場合、今回のU―17ワールドカップにおいて、吉武博文監督率いる日本代表がグループリーグで見せた「内容の伴った勝利」は非常に価値あるものであり、まさにこの世代に求められる課題をクリアしていたと言えよう。細かいパスをつないでゲームの主導権をつかみ、グループリーグで3戦全勝を遂げた日本は、決勝トーナメント1回戦で堅固な守備を固めたスウェーデンに敗れてしまったが、内容を重視し、選手全員に出場機会を与えるという、U―17代表の真義を貫いていた。

 その点、ベスト4入りした今回のアルゼンチンはどうかというと、基本となるプレースタイルは実にお粗末なものだ。後方で奪ったボールをロングパスで前線に送り出し、トップで待ち構えた選手たちが独自の自発性と技術で相手ゴール前へ飛び出して得点を狙うという、創造性に著しく欠如したやり方でここまで勝ち上がってきている。

 同チームの監督を務めるのは、アルゼンチンサッカー協会のフリオ・グロンドーナ会長の次男ウンベルト。今大会の予選を兼ねたU―17南米選手権(今年3月開催)でも同じような戦い方で優勝を遂げており、当時は組織力欠落の理由を「準備期間不足」としていたが、あれから半年経った今もチームの状態にほとんど進化は見られない。

 とはいえ、U―20代表がワールドカップ出場権さえ得られなかった無念をU―17が晴らさなければならないという余計なプレッシャーが世間からかけられる中、ウンベルト・グロンドーナ監督が招集した選手たちは皆、才能とメンタルの強さにおいて特出している。中でも際立っているのが、FWセバスティアン・ドゥリウッシとMFレオナルド・スアレスだ。

 ドゥリウッシはリーベル・プレート所属のストライカーで、その恵まれたフィジカルとシュート技術が往年のガブリエル・バティストゥータをほうふつとさせる逸材。U
17南米選手権では、決勝リーグの対ウルグアイ戦で、ゴールエリアの外から豪快なバイシクル・シュートを決めて見せ、一躍ヒーローとなった。

 スアレスはボカ・ジュニオルスでプレーする小柄なゲームメーカー。私の腕より細いのではないかと思うほど華奢な足でボールを自由自在に操りながら攻撃の軸となり、自ら得点も決める。とにかく小さくて細身なので、相手DF陣による力任せのファウルの犠牲とならないよう、グロンドーナ監督は後半の途中から交代出場させる起用法をとっている。

 07年のU―20ワールドカップ優勝を最後に、ペケルマンのスタッフたちが全員解雇されて以来、下降の一途を辿っているアルゼンチンユース代表。プレー内容は伴わないが、持前のタレントを武器にグロンドーナ監督のチームが初タイトルを獲得し、かつての栄光を取り戻すきっかけを作ることができるかどうかが、国内でも注目されている。(藤坂ガルシア千鶴=ブエノスアイレス通信員)

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