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【コラム】海外通信員

真のフットボールファンにThank you

[ 2013年10月3日 06:00 ]

ウェストハム戦で2得点を決めたDFベインズ(右)と喜ぶサポーター
Photo By AP

 プレミアリーグ第5節、エヴァートンは9月21日にアウェーでウェスト・ハムと対戦し、3―2の逆転勝利を飾った。試合終盤にウェスト・ハムのゴール前で得たFKから芸術的なゴールを2つ記録した左サイドDFレイトン・ベインズは印象的だった。

 エヴァートンのマルティネス監督はこのFKについて次のように語っている。「滅多にお目にかかれないもの。同じ位置からのFKで、2種類のキックを使い分けた最高の代物だった。蹴りたい場所にボールを運ぶ技術は誰が見ても楽しい」

 試合後、肩を抱き合い、歌いながらバスに乗り込むエヴァートンサポーターとは対照的に、肩をすくめて徒歩で家路に向かうウェスト・ハムサポーターを眺めていると、ある映像作品のことを思い出した。プレミアリーグの冠スポンサーのバークレイズ銀行が、今季開幕に合わせて制作した1分30秒ほどのものだ。

 スタジアムに向かう3組のサポーターにフォーカスを当て、若者たちは仲間とバスの中で歌いながらアウェーのスタジアムへ向かい、父と息子は手を取り合いながら満員の地下鉄に揺られ、そして老人は、亡き妻の写真に何かを語りかけ、クラブのマフラーを巻き、徒歩でスタジアムへと向かっていく。

 これが普通の広告なら、ゴールが決まった歓喜の瞬間が使われるだろう。この映像はサポートするチームが敗れ、彼らは顔を覆い、落胆し、悲しむ姿が使われている。この映像を製作したディレクターのニック・ギル氏は「勝ったら応援し、負けたらサポートをやめる、イギリスの天気のようにコロコロと変わるようなファンではなく、死ぬまでクラブと共にいるファンとフットボールのラブストーリーを描きたかった。だからこそ、辛くてタフな場面に焦点を絞ってみた」とフットボールファンの本質を描くことに力を注いだという。

 エヴァートンのサポーターとして登場する86歳のビリー・イングハムさんは17歳の時から、ホームゲームを一度も欠かさず応援に通っている。彼のようなファンに向けてThank Youと語りかけて締めくくられている。

 中堅以下のクラブのサポーターは、勝ち試合より負け試合をよく見る。しかし、ベインズのFKからの2ゴールは、そんなことを忘れさせて、彼に笑顔をもたらした。(竹山友陽=ロンドン通信員)

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