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【コラム】海外通信員

アルゼンチン代表の悩み

[ 2013年9月28日 06:00 ]

アルゼンチン代表主将FWメッシ(右)とDFサバレタ
Photo By AP

 ご存じのとおり、去る9月10日、リオネル・メッシがキャプテンを務めるアルゼンチン代表は敵地でパラグアイを5―2と撃沈し、ワールドカップ予選の2試合を残した第16節終了時点で本大会出場を決めた。

 3節以後無敗のまま、どんどん上昇気流に乗って順調に予選を通過したことで、アルゼンチン国民は代表でゴールを量産するようになったメッシにひれ伏し、いつもはチームに対して何かと文句をつけたがるうるさいメディアからも、今回はあまり批判が出てこない。それどころか、すでに本大会に出場するメンバー23人の大半は決定しており、それに対する異論もほとんどない。

 アレハンドロ・サベーラ監督が作るアルゼンチン代表が確かな方向性を見出し、ベースとなるメンバーを固定したままぶれることなく勝ち点を加算してきた実績は、それなりに評価されている。マラドーナ監督が総勢80人を超える選手を招集しながら、試合のたびに先発の布陣と戦術を変え、最終節でやっと本大会行きを決めたあと、それまで厳しい意見を述べてきたメディアに対して「しゃぶってろ!」と爆弾発言を放ち、宣戦布告した前回の予選とは大違いである。

 では、アルゼンチン代表は安泰なのかというと、そうでもない。まず何よりも、守備面の不安がいまだに残されたままだからだ。

 ワールドカップ本番まで200日以上もあるから、問題を解決するには十分だろうと言われても、実際はそういうわけにもいかない。サベーラ監督はできる限りのことをするだろうが、CBもSBも、今すぐ代表でプレーできるような新しい人材がいないのだから、どんなに知恵を絞っても無理である。

 アルゼンチン代表の守備は、06年大会をもってロベルト・アジャラが去ってしまってから、安定を失った状態にある。選手のレベルも決して一流とは呼べず、メッシやアグエロ、イグアインにディ・マリアが揃った攻撃陣と比較すると、あまりにも乏しい。

 サベーラ監督は、無難なメンバーを継続的に起用することでスムースな連携を作らせ、その差を何とかカバーしているものの、本番で果たしてそれが通用するのかどうかは非常にあやしいところである。

 ガライとフェルナンデスによるCBコンビは、予選の序盤と比べると明らかに自信をつけてきている。ポジショニングと戻りのスピードもずいぶんましになった。それでも、かつてアジャラがチーム全体に浸透させたような安心感を与えるまでには至っていない。相手の攻撃が始まると、チーム全体が緊迫した空気に包まれるのがわかる。最近はどうやらその緊迫感が後ろにいるGKロメロにも伝わるのか、パラグアイ戦ではロメロのつまらないミスから失点を招いてしまった。ボールがセンターラインを越えて自陣に入った途端、アルゼンチンは一瞬にして二流のチームになってしまうのだ。

 もうひとつ、本番に向けて不足していると考えられているのが、9番の代役である。

 06年大会ではフリオ・クルスが、2010年大会ではマルティン・パレルモが「助っ人」として招集され、本大会で奥の手として起用されたが、では今回、監督が信頼し切れるCFがいるのかというと、残念ながらいない。

 飽和状態ともいえるFW陣の人材が不足していると考えることについては、アルゼンチンでも「欲張りすぎる」と考える人が少なくない。メディア関係者の中にも、9番の代役などいなくても、今の攻撃陣ならば得点することは可能だという人もいる。だが私は、02年大会でバティストゥータの控えにクレスポがいたように、ワードカップのような舞台では、イグアインにも控えは必要だろうと考えている。

 ところが、では誰がいるのかと聞かれたら、答えに困ってしまう。現在国内リーグで活躍しているルーカス・プラット(ベレス・サルスフィエルド)やフアン・マヌエル・マルティネス(ボカ・ジュニオルス)を推すメディア関係者もいるが、代表クラスの試合の経験値において、クレスポ、クルス、パレルモといった輝かしいサブ要員たちにはとてもじゃないが及ばない。

 無難に予選を勝ち抜き、本大会のメンバーもほとんど決まっているサベーラ監督のアルゼンチンだが、悩みは残されたままだ。でももしかしたら、それくらい油断できない状態にある方がいいのかもしれない。全く心配事がなく、文句なしに優勝候補とされた02年大会での最終的な結果(まさかのグループリーグ敗退)のことを考えれば…。(藤坂ガルシア千鶴=ブエノスアイレス通信員)

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