×

【コラム】海外通信員

2部降格のVVV 大津佑樹 2年目の勝負のシーズン

[ 2013年9月12日 06:00 ]

VVVでの2年目のシーズンがスタートした大津佑樹
Photo By 共同

 大津佑樹の勝負のシーズンが始まった。当初はチーム力が心配されたが、十分に戦えるチームになっている。VVVは優勝争いができるだけのチームになりそうで、その中で大津に対する期待も大きい。

 大津は2部に降格したVVVに残留。背番号10番を、カレン・ロバートから引き継いだ。ただ、大津以外は大幅に入れ替わっている。FWヌヲフォ、ウイングのウィルドスフットMFリンセン、ファン・ハーレン、ラドサフリェビッチ、DFセイプ、ロセラー、ラムスタインといった主力が軒並みクラブを離れた。当初にチーム力が心配されたのは、そういう状況があったからだ。一方で補強もあったわけだが、こういった選手の入れ替わりが移籍市場の閉まる8月末まで続いていたわけで、ある程度スタメンを固めてチーム作りを進めようにも、その都度変更を迫られる状況にあった。9月に入ってようやくチームのベースが作られつつある、というのが現状だ。

 8月2日の開幕戦、VVVはアウェーでアイントホーフェンと対戦した。内容的には完敗。VVVの各選手の持ち味もよくわからないまま、相手に押し込まれる場面が続く試合だった。しかし、相手の決定力不足にも助けられて0―0で試合を終えた。

 大津は4―3―3のトップ下で先発。ただ、試合開始当初は2トップとも思えるような、高いポジションを取っていた。だが、時間の経過と共により幅広く動き、低い位置まで下がってはボールを受けて前線を走らせるパスをスペースに通したり、体を張ってボールをキープしたり、体を投げ出してボール奪取に行ったりという、がむしゃらなプレーを見せるようになっていった。

 大津には、もちろんゴールが期待される。だがそれだけではなく、試合の流れが悪い時に体を張ったキープ、強引な突破などで流れを押し戻すといった役割もまた、大津には求められる。そんなことが明らかになった試合だった。

 「監督とのコミュニケーションも上手く取れているし、信頼してくれています。その信頼を裏切らないように、自分が結果を出して監督を勝たせてあげられるように、チームを勝たせるように。自分がそういう位置(立場)に来ているということは自覚しないといけない」

 続くホームのビレムII戦でVVVは今季初勝利を挙げた。大津のポジションはトップ下。

 「前回はトップとトップ下の間くらいにいたので。今回は本当の10番の位置に下げた。すごく自分的にもやりやすかった。ボールも受けられるし、周りも使える。チームをコントロールできるという意味では、自分のポジションとしては良いかな」

 この日、相手だったビレムIIはVVV同様昨季降格したチーム。2部で上位争いする上ではライバルになるチーム相手に完勝したのは大きかった。また、シーズン序盤の流れを作る上でも非常に重要な勝利だった。

 「まだまだかもしれないけど、確実に下位を争うチームでないことは証明できたと思います。もっと上で争える、というより、僕らが目指しているのは優勝であって、1部に昇格させることなので。そこに向かって全力でプレーできれば良いかなと思います」

 だが、続くスパルタとのアウェーゲームでは、0―1で敗北。チーム作り途上のVVVは、まだ安定した戦いを見せることができない。また、2部のチームで戦っている以上、大津にしても周りが完璧なお膳立てしてくれるわけでもない。スムーズなビルドアップができない中で、ラフにボールが行き交うことは往々にして起きる。

 スパルタに敗れた後、続くヘルモンド戦でも、決してVVVが試合を支配していたわけではなかった。だが、3―2でVVVが勝利をもぎ取った。その中で大津は味方に完璧なパスを要求するのではなく、セカンドボールへの準備や相手からボールを奪い取るなど、どんな展開であれボールに絡んでいく前向きな意欲を見せていた。

 「今日はセカンドボールへの意識を、すごく持っていました。そういう場面から何度もチャンスが作れていたし、ボールを拾うことができた。ああいうところを拾えると、その分、攻撃に繋がると思う。ハードワークもできたし、良かったと思います」

 味方が判断の良いパス、精度の高いパス、スムーズなビルドアップをしてくれないと嘆いても始まらない。パスが繋がらないなら、自分からハードに体を張ってボールに絡んでいく。

 「(体を張ることに関して)もともと心配ないですけど、それでもよりレベルアップするために、今、筋肉を付けています。体を一回り大きくして、ここで1シーズン戦って、もうひとつ上に行けるように。それを含めて、今シーズンを大事にしたい。いろいろとチャレンジできるので、いい状態でプレーできています」

 VVVはその後、アウェーのMVV戦、ホームのデンボッシュに勝利。この2試合でアウェーはそれぞれ1得点ずつ決めた。MVV戦ではGKが取れずに弾いて入った強烈なミドル。デンボッシュ戦では、右に流れながらゴール左に決めた得点だった。

 3連勝したVVVは、一気に2位へと順位を上げた。

 しかし、勝ち点3差で迎えた9月7日の首位ドルトレヒトとのトップゲームは、0―5の大敗を喫してしまった。前半のうちに0―3となったことで、VVVは後半には大津を下げ、長身FWであるデコーゲルを投入し、4―2―4のようなフォーメーションで中盤を飛ばしたパワープレーに移行した。だがその後も2失点し、0―5という結果に終わっている。

 VVVはチーム作りという点においては、ようやくベースができつつあるという状況だ。ドル取れ人にはチームの完成度の高さで差を見せつけられる形になった。

 「展開的に0―3になってしまったので。前線の選手を変えるのは当然だと思います。前半にもチャンスあったので、自分が決めていれば交代はされなかっただろうと思いますし、そこは自分の責任です。まず、自分が前半のうちに点が取れなかったことを反省したい」とは大津。

 ドルトレヒト戦では大敗を喫してしまったVVVだが、この7節を終えた段階で、4位。当初チーム力が心配されていたことを考えると、十分に競争力を高めてきている。左ウイングに入っている11番ウォルタースの、少々無鉄砲に見えて突破力のあるドリブルとシュート力は武器になりつつある。また、攻守に試合を読む能力が高いセンターバックの8番ポストが存在感を高めている。9番のセンターフォワード、ライコマーもコンディションを上げてきており、大津との連携も高まってきた。また、移籍市場終盤にチームに加わった長身FWデコーゲルは足元も巧みで、今後に期待大だ。

 VVVは今季、2部で優勝を目指して戦うことになる。優勝争いを展開出来るだけのチームになりつつある。そのためには、10番の大津が活躍しなくてはならない。

 人が成長する上で、レベルが高い環境にいた方が良い、というところはあるだろう。だが一方で、立場が人を作るという側面もある。牛後であるよりも鶏口である方が人を成長させる。今の大津は、歯車の一つではなく、チームを勝たせなくてはいけない立場にあるのだ。今の大津はその覚悟も準備もできている。幸先は、決して悪くない。
(堀秀年=ロッテルダム通信員)

続きを表示

バックナンバー

もっと見る