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【コラム】海外通信員

攻守に渡って非常に細かい戦術 マッツァーリ新監督の影響 インテル好発進

[ 2013年8月29日 06:00 ]

<インテル2―0ジェノア>ファンの声援にこたえるインテルのDF長友
Photo By AP

 ユベントスはテベスやジョレンテを獲得し、ナポリはイグアインのほかレアル・マドリーから3人の選手を獲得して補強、さらにフィオレンティーナもマリオ・ゴメスを獲得。イタリアの夏の移籍市場は近年になく活況を示していたが、その流れの中でインテルは蚊帳の外だった。お隣のミランも、CSKAモスクワ本田の夏獲得交渉に難航しているが、彼らは冬にバロテッリというスターを獲得している。そのようなわけでインテルに対する国内の評価は低いものだった。

 しかし、プレシーズンから実戦に突入したインテルの出来は悪くない。8月18日のイタリア杯チッタデッラ戦では危なげなく4-0、そして開幕のジェノア戦でも2-0と完勝した。インテルのシーズン第1号ゴールとなる長友のヘディングシュートもうれしいニュースだったのだが、チームの安定感が目に見えて違うことが何よりのニュースだった。

 守り倒していたわけではない。昨シーズン、シュートの雨を一人で弾きまくっていたハンダノビッチには殆ど仕事をする場面がなく、トゥットスポルトによるジェノア戦での評点は『評価不能』。シュートは未然に防がれていたのだ。前の方からプレスが掛かり、パスコースも塞がれて、相手がペナルティエリアに切り込む前にボールを奪うことが出来ている。「チームはよりコンパクトになった。チームとしてプレイをし、危ない場面が減った」最終ラインをまとめるラノッキアも守備のやり易さを物語っている。

 やはりワルテル・マッツァーリ新監督の影響は大きい。「監督は、攻守に渡って非常に細かいことに気をつける」とラノッキアは言う。プレシーズンのピンツォーロ合宿中に練習を取材したが、攻撃の組み立ての練習にせよプレスやカバーリングの練習にせよ、指示が非常に細かいのだ。ボールの場所によって誰が掴みに行き、逆サイドの人間はどうやってゾーンをカバーするか、また攻撃では豊富なパターンを叩き込まれ、パス出しのタイミングやランニングの方向まで細かく指導される。これは、中村俊輔がいたレッジーナ時代からまったく変わらない彼の方法論だ。

 そして精密な組織プレイを叩き込まれる課程で、選手の力が引き出されている。特に、アルゼンチン人の若手MFリカルド・アルバレスの変貌ぶりは目覚ましい。積極的に走り回ってプレスで体を張り、ボールを奪っては即座に攻撃のスイッチを入れ、ゴール前へ推進しパスをきれいに裁く。卓越した個人技を持ちながら、その活かしどころに困ってボールを失い続けた昨シーズンまでと違い、プレイに迷いがないのだ。「監督の考えはしっかりしていてぶれていない。こうすると僕ら選手としても付いて行き易い」と彼は語った。

 昨シーズンは、ストラマッチョーニ監督そのものが迷いの中にいた。メンバーが揃っているうちは彼らの力を発揮し、ユベントスをもアウェーで破る良いサッカーを展開していたのだが、故障者が出るとフォーメーションを週変わりに替え、それはいい結果をももたらさなかった。低迷は全てが彼の責任ではなかったのだが、混乱を助長した面があるのは否めない。経験のない監督が困難に直面し、悩んだ時に選手には伝わり易いという。その一方で下位クラブの叩き上げから実績を築き、ナポリをビッグクラブに育て上げたマッツァーリからは「オーラを感じる(長友)」という。立て直しを図るには、こうしたリーダーが必要だったのかもしれない。

 長いシーズン、まだ一節を消化しただけだ。だが伝統的にマッツァーリ監督のチームは、連係が成熟する後半戦でより調子を上げて来る傾向にある。好スタートを切れたことは当然、より素晴らしいシーズンの到来を予感させるものだ。(神尾光臣=イタリア通信員)

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