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【コラム】海外通信員

2013コンフェデ杯の経験を2014W杯ブラジル大会へ

[ 2013年7月26日 06:00 ]

2013コンフェデ杯を制したブラジル代表。地元開催の2014W杯で優勝を果たせるか?
Photo By AP

 6月30日にブラジルのリオデジャネイロの新マラカナン・スタジアムでコンフェデレーションズ杯ブラジル大会決勝ブラジル-スペイン戦が行われ、地元ブラジルがフレッジの2ゴールとネイマールのゴールで3-0とスペインに快勝した。

 ブラジルは、今年から再びブラジル代表監督に就任したスコラーリ監督の下で、くしくも同監督の指揮で2002W杯日韓大会で5度目のW杯優勝を果たした同じ6月30日に、史上初のコンフェデ杯3連覇を達成し、通算4度目の優勝を果たした。

 一方、ユーロ2008~2010W杯~ユーロ2012の主要国際大会初の3連覇の偉業を成し遂げたスペインは、唯一足りない大きなタイトルのコンフェデ杯初優勝を目指し、W杯チャンピオンとして2度目の挑戦をしたが、思いがけず大敗を喫した。

 スペインは、準決勝のイタリア戦で延長0-0の120分の死闘の末にPK戦で勝ったものの、中2日で迎えた決勝は、中3日のブラジルより1日休養日が少なくフィジカル的にきつい状況だった。そのうえ、満員の新マラカナン・スタジアムのブラジルファンに大ブーイングを浴びせられる中での戦いだった。そして地元ブラジルファンの大声援を受けて試合開始から守備ラインを上げるブラジルに前半開始2分、フレッジ、前半44分にネイマール、後半開始2分に再びフレッジと、“魔の時間帯”にゴールを奪われた。逆に前半のペドロのクロスシュートをゴール前でCBダビ・ルイスにクリアされて同点機を逃し、後半に左DFマルセロがMFヘスス・ナバスにファールして得たPKを蹴ったセルヒオ・ラモスがゴール左に外し、さらにCBピケがネイマールにファールして一発退場処分で残り時間を10人で戦う羽目になるなど、何もかも全てがうまく運ばず、運もなかった。

 このブラジル-スペイン戦を見て、今季のCL準決勝でバイエルン・ミュンヘンがバルサに2試合合計7-0で大勝した試合を思い浮かべてしまった。実はブラジルのスコラーリ監督は今回のコンフェデ杯の最大の敵はスペインだと的を絞り、情報を集めて良い準備をしていた。と言うのも5月1日にカンプノウ・スタジアムで行われたCL準決勝第2戦バルセロナ-バイエルン・ミュンヘン戦(0-3)を観戦に来ていたスコラーリ監督とばったり会った。その時はコンフェデ杯に向けてバルサのダニ・アウベスを始め、両チームのブラジル代表候補選手の状態を見に来ていたのだろうと思ったが、今思えば欧州でプレーするブラジル代表候補選手を視察中に観戦したバイエルン・ミュンヘンの戦い方から、バルサの選手達が主体となり、バルサを彷彿させるスペイン代表のプレースタイルの打開策を探り当てたと思われる。

 それはスペインのキャプテンGKカシジャスが、「スペインは研究され尽くしていた」と決勝後にコメントしたことでもわかるように、バルサもスペイン代表も、世界最高のチームになったがゆえに、打倒バルサ、打倒スペインと、世界中のチームがバルサとスペインのプレースタイルを賞賛すると同時に、分析・研究して打開策をねってきた。

 だからと言ってスペインとブラジルの実力の差が3-0の結果ほど差があるは思えない。スペインのデル・ボスケ監督が「ブラジルがわれわれより勝っていた。何も言い訳はできない。今後は先ずW杯ブラジル大会出場権を獲得し、再びブラジルでプレーすることを目指さなければならない。このチームは才能と豊富な経験を持った選手がそろい、年齢的にもいまだ充分に戦えると思うので、われわれは何かを大きく変える必要はないだろう」と語ったように、バルサも、スペインも自分達のプレースタイルを確立しているので、大きなレボリューション(革命)は必要ないだろう。

 しかし、世界各国のサッカーレベルが高くなってきている中で、常にエボリューション(進歩)、イノベーション(革新)は必要に思う。来季のバルサがネイマールを補強したように、スペインもある程度の選手を入れ替え、今までとは違った個性を持った選手の加入が必要だろう。幸いにもスペインU―21代表はユーロ2連覇を果たし、才能ある若い選手達が着実に育っている。

 また、コンフェデ杯で感じたが、来年のW杯ブラジル大会は南半球での開催で、冬とはいえほとんど夏のような暑い気候と、ブラジルの国土の広さで移動にかなり時間がかかることが体感できた。特にスペインがグループリーグ第2戦のナイジェリア戦(3-0)と、準決勝イタリア戦(0-0で、PK戦7-6でスペインが勝利)が行われたフォルタレザは赤道直下に近く、試合開始が午後4時時だったこともあって、気温約35度、湿度が80%と高く、スペインの選手は明らかに体力を消耗した。ブラジルで合宿を行って暑さに慣れていたブラジルの選手はどの都市でも平然とプレーしていたが、この高温多湿の気候はW杯ブラジル大会に出場する多くの国にとって不利な条件となることだろう。

 ブラジル国内の移動をスムーズに行い、選手がリラックスできるキャンプ地を選ぶことや、高温多湿の気候に慣れるための準備期間などもW杯ブラジル大会を戦い抜くカギとなりそうだ。それだけに既にW杯本大会出場を決めている日本を始め、W杯出場の可能性が高いスペイン、イタリアなどは、今回のコンフェデ杯でのブラジルの経験を生かすべきだろう。

 開催国ブラジルにしても油断は禁物だ。ジーコが「スペインの攻撃的なプレースタイルは82年のW杯スペイン大会のブラジルの華麗なプレーを思い出す」とコメントしたように、現在のブラジルはいわゆる“ブラジルらしさ”が欠けているように思える。スコラーリ監督は“結果優先主義”と言われており、今回のコンフェデ杯では約2週間の短い大会で本命をスペインに絞って準備万端で臨んで優勝という結果を出した。ブラジルは全5試合に常に先制点を決めて勝ったが、もし逆に相手に先行された場合はどんなリアクションを起こして戦っただろうか?

 しかも来年のW杯ではさらなるブラジル全国民の期待が高まり、優勝が義務付けられて大きなプレッシャーがかかるだろう。まだ出場国は出そろっていないが、順当に行けばコンフェデ杯に出場していないドイツ、オランダ、アルゼンチン等の強豪が加わる。来年6月12日~7月13日までの約1カ月の長丁場でフィジカル面だけでなくメンタル面の調整もより困難になる。しかも地元ブラジルで開催された公式戦でこれまで一度も欧州の国に負けたことがない誇りを守りつつ、“コンフェデ杯に優勝した国はW杯では優勝できない”ジンクスを打ち破らなければならない。

 いずれにしてもサッカーは留まることなく常に進化している。スペインが、今回のコンフェデ杯の苦い経験を“禍を転じて福となす”ように生かし、このコンフェデ杯の借りを来年のW杯ブラジル大会で返すことを今から期待している。(小田郁子=バルセロナ通信員)

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