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【コラム】海外通信員

国際大会に不在のアルゼンチン

[ 2013年7月11日 06:00 ]

 6月にブラジルで開催されたコンフェデレーションズ・カップ(コンフェデ杯)は、ブラジル各地で起きた大々的なデモの影響も幸い受けず、大盛況のまま幕を閉じた。3連敗したとはいえ、日本にとっては来年のワールドカップが行われる会場で、各大陸の強豪と対戦するという、非常に貴重な体験となった。

 さて、お隣のブラジルでワールドカップの前祝が盛大に行われている間、アルゼンチンでは国内リーグ終盤を迎えていた。かつてトヨタカップで来日し、クラブ世界一に輝いたこともある名門中の名門インデペンディエンテが史上初の2部降格という信じられない運命をたどり、同様に降格ぎりぎりのラインに立たされていたこれまた名門アルヘンティノス・ジュニオルスは、危機一髪のところで残留を決め、低迷するボカ・ジュニオルスは最下位を逃れ、ラモン・ディアス監督率いるリーベル・プレートはここ一番で大敗して優勝の望みを絶たれ、バティストゥータやメッシを生み出したロサリオの古豪ニューウェルスが、エインセやマキシ・ロドリゲスといった代表クラスのベテランを擁しながらリーグ制覇を遂げるという、なかなかエキサイティングな展開となった。

 もともとアルゼンチンでは、自国のチームが出場しない大会を観るという習慣がないため、リーグ戦のクライマックスと並行して開催されていたコンフェデ杯を観ていたサッカーファンはほとんどいなかった。同大会を放送していたスポーツ専門局の関係者の話では、決勝のブラジル対スペイン戦だけはリーグ戦終了後に行われたこともあり、ある程度の視聴率は得られたようだが、その他の試合はほとんどが裏番組に負けてしまっていたらしい。

 当然のことだろうと思いながらも、大会を観ていた一部のスポーツ記者たちは、アルゼンチンが出場していなかったことを残念に思っていた。南米王者のウルグアイがブラジル相手に善戦しつつも敗れた様子を見ながら、一昨年アルゼンチンで行われたコパ・アメリカで優勝できなかった悔しさを思い起こし、「ここでアルゼンチンがブラジルに勝ち、マラカナンでスペインと対戦していたらどれほど素晴らしかったことか」とSNS上で呟く記者もいた。

 さらに、ブラジルが決勝で世界チャンピオンのスペインを寄せ付けずに快勝するや、翌日のスポーツ紙では「マラカナッソ」(マラカナンの奇跡)ならぬ「マカナッソ」(とんでもないこと)という見出しが一面を飾り、「強いブラジル」の復活を嘆いた。サッカー専門番組では、最強ブラジルのイメージが世界中に発信される中、アルゼンチンが大会に出場さえしていない事実を恥じるべきだと唱えるジャーナリストもいた。

 コンフェデ杯が終わり、南米では中断されていたコパ・リベルタドーレスが再開され、アルゼンチン勢で生き残ったニューウェルスがロナウジーニョを擁するアトレティコ・ミネイロと対戦する準決勝に気持ちを切り替えたところで、今度はトルコで開催されているU-20ワールドカップの決勝トーナメントがスタート。ここにも、アルゼンチンは出場していない。

 かつてはユース世代の強豪として名を馳せたアルゼンチンだが、今回は予選を通過できなかった。同じ南米のウルグアイが快進撃から準決勝に進出したというニュースを報じながら、ある重鎮記者は「この間まではコンフェデ杯、今度はU-20ワールドカップまでもが無縁とは何事か」と、これまたサッカー専門番組で怒り出す始末。いくら一般のファンの興味がクラブチームの話題に集中しようとも、世界のサッカーを常に取材する立場にある記者にとって、国際舞台にアルゼンチンが出ていない事実は屈辱でしかないのである。
 そんな時、U-20ワールドカップで撮影されたある1枚の写真がアルゼンチンのメディアに大きく取り上げられた。今大会で審判たちによってテスト使用されている、フリーキックの壁とキック位置をマーキングするスプレーの写真だ。

 実はこれ、アルゼンチン人が発明したもので、国内リーグでは2008年から使用が義務付けられており、南米サッカー連盟が主催する大会でも一昨年から使われている。
 国際大会で輝く唯一のメイド・イン・アルゼンチンがスプレーだけに終わらぬよう、10月にUAEで開催されるU-17ワールドカップのアルゼンチン代表の健闘を祈っている。(藤坂ガルシア千鶴=ブエノスアイレス通信員)

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