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【コラム】海外通信員

イタリアの育成現場 バロテッリ、サントンらを輩出 成功しているインテル下部組織

[ 2013年4月21日 06:00 ]

インテル・ミラノ下部組織出身のマリオ・バロテッリ(ACミラン)
Photo By AP

 左膝半月板の損傷で長友を失ったインテル。今季の彼らには故障者が続出し、特にFWは壊滅状態だった。2月、ミリートを靱帯断裂の大ケガで失えば、その間に得点を稼いで穴を埋めていたパラシオも肉離れを起こして今季絶望、さらに4月の頭にはカッサーノまでも故障した。メディアはクラブをこう批判した。「どうして、ロンゴやリバヤを残して置かなかったのだ?」サムエレ・ロンゴにマルコ・リバヤ、インテルのプリマベーラ(ユース年代の下部組織)に所属していたFWだ。しかし前者はエスパニョールに、後者はアタランタに期限付き移籍へ出されている最中だった。

 良くも悪くもトップチームが目立つインテルだが、実はこの数年で下部組織の整備に成功している。いずれも移籍してしまったが、バロテッリやサントンを輩出したのは記憶にも新しい。今季も、同様の道を辿ると期待されていた若手はいた。プレシーズンで活躍したDFイブラヒマ・エムバイエ、ストラマッチョーニ監督がプリマベーラの監督を務めていた頃のレジスタで、イタリアU-21代表にも選ばれたMFマルコ・ベナッシ、ガーナのフル代表にも選出されたMFアルフレッド・ダンカン。ケガ人が多発した状況で、そもそもチーム刷新の一年と位置づけたのなら、こういった若手をもう少し使えば良いのにと思うのは自然なことだ。実際、そういう質問を投げかけたメディアは少なくなかった。

 しかし、若手育成の現場で経験を積んだストラマッチョーニ監督は、冷静にこの年代の限界を見ていた。「イタリアの場合、プリマベーラの選手とセリエAの選手には技術、フィジカルの面で大きな差が生じてしまう。試合で受けるプレッシャーが段違いだ。実際プリマベーラからいきなり引き上げられて、セリエAですぐにポジションを奪った選手など今季はいないはずだ」と、会見の中で若手起用を訴える地元記者に反論していた。

 バルセロナを筆頭に『カンテラ』出身の選手が次々と台頭・定着しているスペインの場合、まず2部リーグなどに所属しているBチームなどに送り、大人のプレッシャーに慣れさせるというシステムが出来ている。だがイタリアでは、経験を積ませるにはレンタルで地方のクラブやセリエBのクラブに期限付き移籍で貸し出す(もちろんその間は好きに呼び戻すことなど無理)しか道がない。かといって手元に残せば、トップチームの選手に出場が阻まれてしまう。特に、ファンが何より結果を要求するイタリアにおいては難しいことだ。

 もっとも全国選手権が整えられ、トップチームの選手も調整を目的とした出場が許されているプリマベーラも、育成を目的としたリザーブリーグの役割が期待されていたはずだった。しかしストラマッチョーニ監督に言わせれば、その機能を果たしてはいないのだという。「例えば、本当にうまい選手が16、17歳位で現れたら、その選手はユース年代などはすっ飛ばしてトップチームに定着してしまう。若手をプロ選手として本当に使えるようにするには、もっと年上のプロ選手が出場する場で、激しい当たりに慣れてもらうしかない」。

 Bチームの組織、あるいはリザーブリーグ創設の要求は、以前からも各方面から出されていた。そしてようやく4月末、レガ・セリエAは各クラブのBチーム創設を認め、そして第3部レーガプロ・プリマディビジオーネに参加させる方向で検討に入ったが、ベレッタ会長は「実現可能かどうかは、まだ検討の余地がある」と言う。そういうシステムがもっと前からあれば、インテルもここまで戦力不足に困ることはなかったのかもしれない。ただ「若者の価値を上げることを期待して(モラッティ会長)」ストラマッチョーニ監督の内部昇格を決めたのもまたインテル。育成現場についての認識は、彼ら自身にも甘いところがあったはずだ。(神尾光臣=イタリア通信員)

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