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【コラム】海外通信員

アルゼンチンU-17代表に思うこと

[ 2013年4月13日 06:00 ]

 今、アルゼンチン北部の都市サン・ルイスとメンドーサで開催されているU-17南米選手権を観に来ている。

 ホスト国のアルゼンチン代表は、ウンベルト・グロンドーナ監督(アルゼンチンサッカー協会のフリオ・グロンドーナ会長の次男)の指揮のもと、現時点では1勝2敗の戦績で、グループAの5チーム中3位につけている。混戦するグループを勝ち抜いて決勝トーナメントに進出するためには、最終戦のコロンビア戦での勝利が必須条件となるだろう。
 
 今年1月のU-20南米選手権において、アルゼンチンはグループリーグで敗退し、U-20ワールドカップへの出場権を逃すという屈辱を味わってしまった。95年から07年の間に行われた7大会で5度も世界チャンピオンに輝くという、つい最近までの功績が、まるで嘘だったかのような結果だ。

 「この子たちはU-20代表の失敗を繰り返すまいという重圧を感じているんですよ」。
 U-17代表でプレーするボカ・ジュニオルス所属のDFニコラス・ピント選手の両親は、そう言いながらため息をついた。開幕戦から痛恨の2敗を喫したあと、3戦目で快勝を遂げた直後のことだ。

 本来ならば、失敗から多くのものを学ぶ育成期にある16~17歳の少年たちが、先輩たちが味わった屈辱を背負い、勝利に執着してプレーしなければならない残酷な現状。決して誰かから責任を押し付けられたわけではないのに、一体なぜそのようなことになってしまうのか。
 
 原因は、短期間で結果を出すことが強要されるアルゼンチンサッカー界の習慣にある。

 かつてアルゼンチンのユース代表を世界の最高峰まで導き、現在はコロンビアA代表の監督を務めるホセ・ペケルマンは、過去に受けたアルゼンチン国内のクラブチームからのオファーを全て断ったが、その理由は「半年で結果を出せなければ解雇されるような事態が恒例化してしまっているから」というものだった。

 実際にアルゼンチンでは、2季制で行われるリーグ戦において、全19節の半ばで監督が交代するケースが珍しくなくなっている。4~5試合ほど勝てない状態が続くと、監督の支持率は――過去の栄光によってサポーターから溺愛される監督でもない限り――激減し、契約満期を待たずして辞任に追い込まれるというパターンだ。

 この重圧の犠牲となっているのは、クラブチームの監督だけではない。現在アルゼンチン代表監督を務めるアレハンドロ・サベーラも、もしワールドカップ予選第4節のコロンビア戦で勝っていなければ解任されていたことが、後日、事情通のメディアによって明らかになった。つまり、就任からわずか2か月で辞めさせられていたかもしれないのだ。

 試合の3~4日前でなければメンバーが揃わない代表チームにおいて、監督が最も必要としているものが「時間」であることなど、専門家でなくともわかる。だがそれが、人一倍勝利にこだわる国民性が引き起こすアルゼンチンサッカー界の現状であり、選手も指導者も、そういった環境の中で生きていかねばならないのだ。

 アルゼンチンのユース代表部門は現在、著しい衰退の事実を深刻に受け止め、これまでコーディネーターだったグロンドーナ本人が指揮を執りながら体制全体を見直し、再建を試み始めた段階にある。U-17代表がここで結果を出せなくともそれは当然であり、今後、早急に指導方針を定め、時間をかけて各カテゴリーで本格的な育成に従事する必要に迫られている。
 
 大会を観ていると、アルゼンチンにタレントが不足していないことに気づく。さすがにメッシ級の天才児はいないが、「未来のリケルメ」や「第二のイグアイン」という肩書をつけるのに相応しい選手たちは確かにいて、実際、今大会を視察に訪れている欧州の各クラブのスカウトたちも、アルゼンチンの選手たちの素質を十二分に認めている。 

 そんな彼らは、生まれ持った才能に加え、勝利が義務付けられる酷な環境で育ったことによる強靭なメンタリティを秘めている。開幕から連敗を喫し、3試合目では個々の力が働いてチームを勝利に導いた。相手の動きを先取りし、最後の最後までボールに喰らいつくプレーのひとつひとつに勝利への執念が感じられ、グロンドーナ監督も「16歳の少年たちにとって、開催国として2連敗したあと精神的に立ち直るのは容易なことではない」と語り、選手たちの強い精神力を称賛した。

 重圧につぶされるのではなく、それに押されるかのように力を発揮するアルゼンチンの選手たち。少年たちが哀れだと思いながら観戦していた自分が恥ずかしくなるほど、彼らは頼もしかった。優れた才能と精神力を秘めた逸材たちが、ペケルマンのような育成の専門家たちの手によって、もう一度世界の頂点に立つ日が来ることを切望せずにはいられない。(藤坂ガルシア千鶴=ブエノスアイレス通信員)

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