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【コラム】海外通信員

サポーターの品格 ブラジルと日本

[ 2013年4月6日 06:00 ]

13年1月、ACミラン(イタリア)から加入したコリンチャンスのFWパト
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 3月、CBF(ブラジルサッカー連盟)は急遽ボリビアで4月6日、ブラジル代表とボリビア代表とのフレンドリーマッチ(国内組の選手のみを行うことを発表した。

 通常、代表のマッチスケジュールは、数カ月前にプログラムが組まれるのだが、この急な決定にはコリンチャンスが絡んだ大事件が背景にあった。2月20日、ボリビアのオルロ市で行われた2013年ブリジストン・リベルタドーレス杯のグループリーグ初戦、対サン・ホセ戦のことだった。

 標高3700メートルの高地で厳しい戦いが強いられると予想された。初戦ということもあり、決して簡単な道のりではないが、コリンチャンスのサポーター軍団である「忠実な鷹たち(ガヴィオンエス・ダ・フィエウ)」は、オルロまでバスを乗り継いで乗り込んだ。

 昨年のクラブW杯でブラジルから日本まで行ったサポーターの数が1万人は下らないことからもわかる通り、コリンチャンスのサポーターは熱狂的だ。12番目の選手としてチームを支えるのだが、今回は最悪なサポートぶりとなってしまった。

 試合は、サン・ホセが前半に先制し、コリンチャンスが後半同点に追いつき1-1のドローで終わったのだが、試合中観客席でとんでもないことが起きた。

 コリンチャンスサポーターが持ち込んで火をつけた発煙筒をサン・ホセ側の観客席に投げたのだ。それだけなら、まだしも、発煙筒はボリビア人の14歳の少年の目に当たり突き抜け、脳にまで達し、死亡するという大事件になってしまった。

 ガヴィオンエスのメンバーの8人が拘留されボリビアに残ることになったのだが、帰国したメンバーの中から、自分がやったという青年があらわれ、サンパウロの警察に自首するという騒動に。当初、CONMEBOL(南米サッカー連盟)は、コリンチャンスの試合を無観客試合にするという処分を発表し、すでにチケットが売られていたホームゲームの試合に観客の入場禁止措置を取った。

 最終的には、20万ドルの罰金とアウェー戦でのサポーターの入場禁止処分となった。この死亡事件が発端となり、急遽CBFは、収益金(約100万ドルと言われる)ケヴィンの家族に寄付するフレンドリーマッチを開催することにしたのだ。

 コリンチャンスサポーターは、クラブW杯決勝の横浜スタジアムでも発煙筒を使用していたが、横浜でこの痛ましい事件が起きていてもおかしくはなかったということだ。熱狂と狂気は全く紙一重。これでは、チームの足を引っ張るダメなサポーターになってしまった。
こんな狂気は許されない。

 ブラジルでこんな応援を見慣れているため、日本のお行儀が良すぎるサポーターに驚くことがある。先日、J2第5節FC岐阜対徳島ヴォルティスの試合を観に行った。正直、あそこまで後ろ向きなサッカーをプロレベルでするということにとても驚いた。

 岐阜のアミーゴ(友達)のサッカー小僧Kくんが言うには、「小学生の頃は喜んでFC岐阜の試合を観に行ったけど、もう今は(高校生)お金を払ってまで観る気がしない」と。点を取ろうとしない(取れないのではなく)姿勢、ボールを持ってもカウンターするわけでなく前を向かずなぜか後ろを向いてしまうのは、守備的サッカーとか、作戦だという説明は厳しい。

 1点取られて負けているのに、点を取りにいかないのはなぜだろう。FWのファビオが退場になり、一人少なくなってから、急に選手の動きが良くなったのは、切羽詰まったからだろうか。監督は特に指示を出していなかったようだが…。

 こんなふがいないサッカーを見て、さぞやサポーターは悔しかろうと思う。試合中、ずっと「前を向け!走れ、」と怒りながらも愛ある叫びをしていた熱心なサポーターもいた。

 しかし、不思議だったのは、楽器や旗でずっと応援をし続けていた応援団が、がっかりはしているものの、怒ってはいないことだった。確かに、ただの怒りや狂気は許されないが、建設的批判はサポーターとして、お金を払って見にきているサポーターとして当然の権利ではなかろうか。プロの試合とはそういうものなのではないのか。それとも、それを言い続けても報われないことで、納得のいかないサポーターはスタジアムから遠かってしまったのだろうか。(第6節の東京ヴェルディ戦ではFWを置かない布陣で臨みながら開始3分で失点、さらに2点取られた。後半FWを投入したものの、チャンスが作れず開幕以来無得点記録を伸ばした。まだ勝ち試合はなく、最下位を独走中)

 それにしても、世界最速でW杯出場か?と盛り上がっている国のプロとは思えぬ内容に驚いた。サポーター品格とは、下品でも上品すぎてもいけない。全くもって難しいものだ。(大野美夏=サンパウロ通信員)

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