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【コラム】海外通信員

デビュー20周年目 永遠のカピターノ トッティ

[ 2013年3月25日 06:00 ]

3月3日ジェノア戦でゴールを決めて、セリエA通算得点数歴代2位タイの225に並んだトッティ
Photo By AP

 フランチェスコ・トッティは骨の髄までロマニスタだ。

 ASローマのファンを意味するロマニスタ、彼らは庶民的で情熱的。なじみのバールでエスプレッソを飲みながら地方ラジオのサッカー番組で盛り上がる。

 週末ともなれば、大きなジェスチャーを交え、友人たちと直前の試合を予想しながら士気を高めていく。庶民の家に生まれて、下町で育ち、やがてローマのキャプテンになった男の人生はローマっ子にとっての夢そのものなのだ。ジャンニーニに憧れたローマの少年は今、クラブ史上最も偉大な選手に成長し、現在36歳となった。

 トッティは3月3日のセリエA第27節ジェノア戦で今季10ゴール目を挙げ、ノルダール氏が持つセリエA通算得点数歴代2位タイの225に並んだ。不滅の大記録でも何十年もすれば破られるものだ。1メートル88、95キロという強靭なフィジカルを誇り、”野牛”と恐れられミランで活躍したノルダールの偉業は55年前にさかのぼる。

 現在のサッカー界は本当に大きな変化を遂げている。選手に求められるクオリティーの幅は、今と一昔前では雲泥の差がある。戦術至上主義でゴールを奪うのが世界一難しいリーグと言われているのが現在のセリエAだ。それだけに「225」という数字がいかに大きい数字であることを思い知らされる。トッティを除くセリエA歴代通算得点数のトップ5の記録はいずれも約40年前~66年前に達成されたもの。近年の選手ではイタリアの至宝と呼ばれ、引退した6位のロベルト・バッジョだけが200ゴールを超え、現役選手ではオーストラリアでプレーする38歳のデルピエロの188ゴール、ウディネーゼの35歳FWディ・ナターレが168ゴールと続いている。

 医療技術の目覚ましい発達、フィジカルを保つトレーニング方法の確立により、サッカー選手の寿命は延び続けているが、それはGKやDFの選手がほとんどで経験がモノをいうポジションだ。FWにおける進化は、他のポジションと比べものにならないほど大きい。結果だけが求められるセリエAでストライカーとして生き残るのは至難の業だ。キャリアをここまで長く保つ秘訣は、徹底したプロ意識。節制した生活とトレーニングの賜物以外何物でもない。元ローマ監督でスクデットを獲得した現ロシア代表のファビオ・カペッロ監督は「トッティの活躍に驚いてはいない。ピッチ上でまだ最強であることを示すために、彼はプライベート面での犠牲を受け入れているからね。これがトッティの秘密だ」と明かしている。

 2月中旬のセリエA第25節、9位ローマはFWトッティの時速113キロの弾丸シュート一発で首位ユベントスを沈めた。チャンピオンズリーグのセルティック戦でエネルギーを消耗しきった中3日の相手ではあったが、地元オリンピコで宿敵に9年ぶりの勝利。セリエA通算224得点目の主将の一発。ゼーマン監督が解任され新年明け6戦2分け4敗で迎えた崖っぷちの勝利に「ターニングポイントの一戦になることを願っている」と希代のカンピオーネは久々の笑顔。チームが苦境に立っている時こそ、彼の存在は重みを増す。

 前節のサンプドリア戦ではチーム内得点王のFWオスバルドがトッティからPKを奪い、惨めにも失敗。ファンに腐った卵を投げつけられるなど四面楚歌の同僚に対し、「俺にとっては、ホイッスルが3回鳴ったら、そこですべて終わり。オレの、オレたちの、君たちのローマに手を出すな!」と擁護。さらに、オスバルドが「早く復帰し、ゴールを決めて喜ぶ」ことを願っているとも語った。

 2004年のヨーロッパ選手権でのデンマーク代表のポールセン選手へのつば吐き事件など精神的なもろさもあったが、2005年の結婚とその後の子供の誕生で精神的に大きく成長した。プポーネ(大きな赤ちゃん)と呼ばれていたローマのエースは今や2児のパパとなりすっかり親ばかになっている。だが、ピッチ上での観客を喜ばせたいという無垢なサービス精神はデビュー当時から今も変わっていない。シュート以外の場面でも、彼はダイレクトプレーやヒールパスを頻繁に使い、極上のファンタジーアでファンを熱狂させてくれる。

 「40歳までプレーしたい。ピオラ(セリエA通算得点数274の歴代1位)を超えたら引退するよ」とまもなくデビュー20周年目を迎えるローマの王子の野心は燃え上がる。(下妻 宏=イタリア通信員)

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