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【コラム】海外通信員

マドリディスタの憂鬱

[ 2013年1月3日 06:00 ]

モウリーニョ監督の真価が問われる2013年
Photo By AP

 毎年12月22日は、スペインで最も賞金の高い“エル・ゴルド”と呼ばれるクリスマスの宝くじの抽選会の日だったが、その夜の20時からマラガ対レアル・マドリード戦が行われ、ホームのマラガが3―2でレアル・マドリードに競り勝った。今季CL初出場でグループリーグを無敗の1位通過で決勝トーナメントに進み、大いに意気が上がっているマラガが、スペインリーグ戦でレアル・マドリードを破ったことで、クリスマスの宝くじで1等を当てたくらいの歓喜をクリスマスプレゼントとしてマラガファンに捧げたのだった。

 くしくもマラガのマヌエル・ペジェグリーニ監督は、第2期フロレンティーノ・ペレス会長時代の09~10シーズンに最初のレアル・マドリードの監督になった。そしてペップ・グアルディオラ監督のバルセロナに優勝は奪われたものの、2位で終わったシーズン後に1年の契約期間を残して解任され、代わりにインテルでCL優勝を果たしばかりのジョゼ・モウリーニョ監督がレアル・マドリードの新監督に就任した経緯があり、いわば因縁対決だった。

 一方、レアル・マドリードはこの敗戦で今季のスペインリーグで早くも4敗目を喫し、通算17試合10勝3分け4敗の勝ち点33にとどまり、この試合の2時間前にアウェーでバジャドリーに3―1で勝って勝ち点49に伸ばした首位の宿敵バルサと、何と勝ち点16まで差が広がってしまった。

 さらに今季好調で勝ち点40のリーグ2位のもう一つの宿敵アトレティコ・デ・マドリードとも勝ち点7差となり、モウリーニョ監督自らが「リーグ戦でこんなに勝ち点を失ったのは私の経験で初めてだ。ばん回してリーグ優勝するのはほとんど可能性がない」と早くも降参宣言を出す始末で、マドリディスタ(=レアル・マドリードファンの総称)にはとても憂鬱なクリスマスプレゼントになってしまった。

 レアル・マドリードの宿命のライバルのバルセロナは、今季からグアルディオラ監督に代わって新監督になったティト・ビラノバ監督がチームを指揮し、今季リーグ開幕から17試合16勝1分けのスペインリーグ歴代開幕無敗記録を更新するなど絶好調で、バルセロニスタ(バルセロナファンの総称)を大いに喜ばせている。しかもティト・ビラノバ監督は約1年前に唾液腺(耳下腺)のがん腫瘍摘出手術を受けたのだが、この試合前に再び腫瘍が見つかって再手術を行なった。クラブばかりかバルセロニスタを大いに驚かせたが、それをモチベーションにしてチームの団結を図り、勝利をビラノバ監督に捧げた。

 しかし、何よりもマドリディスタにとって大きなショックだったのは、モウリーニョ監督が何とレアル・マドリードの生え抜き選手でクラブの象徴でもあるイケル・カシージャスを外し、代わりにサブのGKアダンをスタメンに起用したことだった。このことはペレス会長にも知らされておらず、試合前の生中継のインタビューで初めて知って、思わずメガネをかけ直してメンバー表を見て驚いたほどだった。当のモウリーニョ監督は「カシージャスよりアダンの調子が良いと感じたので私が決断した」と全く動じないコメント。

 モウリーニョ監督は、10~11シーズンにレアル・マドリード監督に就任してから1年目で、スペイン国王杯決勝に1-0とバルセロナを破って実に18年ぶりに優勝をもたらし、2年目でバルサの4季連続優勝を阻んで4年ぶりにレアル・マドリードにスペインリーグ優勝をもたらしてマドリディスタを喜ばせたが、一方でモウリーニョ監督は就任してから、マドリードの生え抜き選手でクラブの象徴だったラウル、グティを放出し、サッカービジョンの違いがあったレアル・マドリードの元選手で監督でもあったホルヘ・バルダーノGMを解任させ、事実上チームの全ての実権を握り、事あるごとに選手達(ペドロ・レオン、ベンゼマ、エジル、セルヒオ・ラモス、カカー、ディ・マリア、モドリッチ、クリスティアーノ・ロナウド等)の戦う姿勢を非難し、時にベンチに座らせてきた。

 しかし、モウリーニョ監督がレアル・マドリードの主将であるばかりか、スペイン代表の主将である守護神のGKイケル・カシージャスをスタメンから外したことで、マドリードディスタの感情に触れたのは明らかだ。なぜなら、今季のカシージャスの調子は決して落ちていたわけではなく、むしろチームを何度も救う活躍だった。それだけにレアル・マドリードのチームメイトのセルヒオ・ラモスが「カシージャスのスタメン落ちに驚いた。」と言えば、宿敵バルサのシャビも「ただただビックリ!」とコメントすることでもわかるように、今回のモウリーニョ監督の決断は、カシージャスをスタメンから外した理由が彼の不調ではなく、何か別な理由で外したと思われるからだ。

 これを受けてレアル・マドリード系のスポーツ紙のアス紙は「モウリーニョ監督がカシージャスを外したのはレアルを出て行くための手段か?」のインターネットのアンケート調査で実に93%が「レアルを出るための手段」と答えた。一方、マルカ紙は「レアル・マドリードはモウリーニョ監督を解任すべきか?」のアンケート調査で82.2%が「解任すべきだ」と答えて、モウリーニョ監督への不信が一気に高まった。更に巷ではモウリーニョ監督にパリ・サンジェルマンやマンチェスター・ユナイテッド、マンチェスター・シティー等から来季のオファーが来ていると噂され始めている。

 良くも悪くもクリスマス休暇のお陰で、次の試合は年を越えた13年1月6日のスペインリーグ第18節レアル・マドリード対レアル・ソシエダ戦まで持ち越された。クリスマス休暇明けの12月30日に行われたレアル・マドリードの練習は一般公開されて、満員となったスタンドの7,000人のマドリディスタからカシージャスを支援する「イケル(・カシージャス)!」の大合唱が起こったが、モウリーニョ監督へは特に非難もなかったものの、他の選手達と同様に拍手が送られただけだった。取り敢えずマドリディスタは憂鬱な気分を抱いたまま、ホームのサンティアゴ・ベルナベウ・スタジアムで行われる試合の成り行きを見守るようだ。

 一方で、確かにレアル・マドリードのスペインリーグ優勝はほとんど不可能ではあるが、いまだスペイン国王杯、CLが残っているのは事実である。しかも自ら“スペシャル・ワン”、さらに今季は“オンリー・ワン”と名乗るモウリーニョ監督は、「私はレアル・マドリードを辞任する気はない。私の目標はマドリードで通算10度目のチャンピオンズ杯を獲得し、前人未到の3つの違うクラブでCL優勝を果たすことだ」と豪語している。マドリディスタもスペインリーグ優勝が絶望的になった今となっては01~02シーズンに9度目の優勝を飾って以来、10年も獲得してしないCLで悲願の10度目のCL優勝を望んでいるのは間違いない。

 いずれにしてもモウリーニョ監督がチームを立て直し、要求のうるさいマドリディスタの信頼を取り戻すことができるかどうか、彼の真価が問われるのはこれからだ。(小田郁子=バルセロナ通信員)

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