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【コラム】海外通信員

スナイダーの移籍は既定路線か!?

[ 2012年12月15日 06:00 ]

移籍は既定路線と噂されるインテル・ミラノのMFスナイダー
Photo By AP

 「このクリップ、ナガトモと彼女たちは何を歌って、何を喋っているんだ?『ムシムシ』とはどういう意味だ?」

 9月の半ばトリノ戦の後で、民放テレビ局の記者から解説を求められた。長友がももいろクローバーZと共演したあのCMである。よく見つけてくるなあと思ったら、なんとスナイダーが短文投稿サービス『ツイッター』で拡散したのだという。恐るべしツイッター文化、そして恐るべしオランダ代表10番。折に触れて彼は、長友とのツーショットをアップして、時にはオランダ語のコメントを曲げたイタリア人記者に「もう一度勉強し直すか黙ってやがれ」と毒づき、そして「フォルツァ・インテル!」とクラブへの愛を公言してきた。その時は、2カ月後にこのツイッターが彼とインテルの関係悪化を告げることになるとは、想像もつかなかった。

 「私の旦那がツイートを出来なくなったの。チームの方針だっていうけど、そんなのは彼だけよ。彼はいつもチームのことを思って、全力で頑張ってきてたのに…」。11月9日、同選手夫人でテレビタレントのヨランテ・カバウが暴露ツイートを行ったのだ。実際はインテルの選手、関係者に対し「チームの運営や動向そのものに関わるツイート、SNS上の投稿は控えるように」という通達が出ていた。何ものかがストラマッチョーニ監督の名を語り、SNS『フェイスブック』上でデマを流されることが頻繁にあったからで、のちに彼らは全選手のアカウントの有無を公式サイト上で公表している。夫人の誤解とも言えるが、感情を露にしたツイートはマスコミの疑念を呼ぶには十分だった。「インテルとの関係が冷えたのか」。そして2週間後、ブランカTDが「スナイダーに対し、年俸ダウンに応じるよう求めている。サインをしない間は試合でプレーすることはない」と明らかにした。関係は、実際に悪化していたのだ。

 12月3日、両者の第1回目の交渉は決裂した。「プレーもさせてくれないのに、その上悪化した契約条件を呑めというのか?」ツイートではなく代理人を通して、スナイダーは怒りを表した。折り合いはついていない。彼の戦力外扱いは「メンタルで落ち着いてないと試合には出せないから(ブランカTD)」という理由が付いており、ストラマッチョーニ監督は「現場の責任者としてあくまで自分がそう判断した」と語っている。しかしクラブが契約の見直しを求めるよう迫っている事実は無視しがたく、国際サッカー選手協会は「クラブは選手に対し、契約を盾に取った圧力行為をやめるように」という声明まで出している。

 俗にいう「モビング」。大型の天敵に直面した小型の鳥類が、集団を作って追い払う『疑攻撃』と呼ばれる行動を意味するが、それが転じて職場での集団イヤがらせ行為を差す言葉だ。イタリアと、その他欧州のサッカー界では、残念ながら頻繁に行われてきた。契約期限の迫った選手に更新か否かを突きつけ、あるいは戦力外となりそうな選手に移籍を示唆し、それを嫌がったら完全な戦力外扱い。試合どころか練習にも参加させない。酷い場合にはその問題を暴露したら、あるクラブから出入り禁止にされたスポーツ記者もいたほどだ。ただスナイダーは、故障からの復帰後一緒に練習には参加させており、モラッティ会長は「純然とした対立関係があるわけではなく、監督もそう言っている。クラブと選手双方にとって最良となる解決を図っているのは事実だが、彼に何も強制することは出来ないし、そのつもりもない」とモビングの存在を否定する。

 ファイナンシャル・フェアープレー対応に苦慮するインテルは、7000万ユーロ近い負債をまだ残しており、経営のスリム化は避けられないところ。2010年の3冠以降、ケガ続きで出場機会の低下しているスナイダーに対し年俸ダウンを要求したのは、高すぎる年俸に買い手が付かなくなることを懸念するという意味でも、仕方のない判断だろう。とはいえ、プレーするにもまずサインありきを押し付けられるのは、余計選手に冷静さを失わせるようにも感じられる。イタリアサッカー選手協会のトンマージ会長は「確かに彼はチームの練習をしているから、モビングには当たらない」と見解をだしたが、その一方で「既存の契約について選手側ばかりを問題視するのは行き過ぎだ。そもそも契約は両者の合意があって結んだことなのだから」と、一方的に契約更新を突きつけるインテルの姿勢を批判している。

 やれパリSGか、それともインテルとの契約を破棄した上でミランへ移籍かという噂もながれ、もはや彼の移籍は既定路線かと地元メディアは連日報道している。そんな中スナイダーはピネティーナの練習場に訪れたファンに「またここで会おう。僕はインテルから出たくはないんだ」と語ったという話も上がっている。一体どれが真実の”ささやき”なのか。「ウェズはもうパリSGの選手だ。インテルファンの皆さん申し訳ない。私の決断ではないのです」。こちらはストラマッチョーニ監督本人が否定したことを前提に、あえて彼の名を語るデマツイートである。(神尾光臣=イタリア通信員)

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