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【コラム】海外通信員

悩めるリーガエスパニョーラ、2極化&プレミアリーグ養殖場化の現状

[ 2012年11月22日 06:00 ]

10年夏、バレンシアからマンチェスターCへ移籍したスペイン代表MFダビド・シルバ
Photo By AP

 クリスティアーノ・ロナウドとリオネル・メッシが五大陸を熱狂の渦に巻き込む影で、リーガに回り始めた毒は徐々に競争力というリーグの根幹を蝕み始めている。

 レアル・マドリードは昨季の総収入を2シーズン前と比較して7%アップとなる5億1400万ユーロと発表し、負債も1億2500万ユーロまで減らした。また今季予算は、スポーツクラブとしては破格の5億1700万ユーロとなった。一方バルセロナの昨季総収入は4.5%アップの4億9500万ユーロで、負債も3億3500万ユーロに減少。今季予算は4億7000万ユーロだ。リーガを象徴する2強は、世界のスポーツクラブを代表するような成果を財政面でも叩き出している。

 では、その他のクラブはどうか。スペインで3番目の組織の大きさを誇るアトレティコ・マドリードの今季予算は1億2000万ユーロほどで、バレンシアは1億ユーロ。そのほかは1億ユーロより低く、アスレティック・ビルバオが6600万ユーロ、セビージャが6000万ユーロと続き、一番下はラージョ・バジェカーノの900万ユーロとなっている。深刻なのは各クラブが抱える負債で、リーガ1部に在籍するクラブが抱える総負債額は35億000万ユーロにも及ぶ。特筆すべきは財務省への債務6億2000万ユーロで、ガリシアの名門デポルティボは同省から放送権、チケット、スポンサー収入を差し押さえられ、レイ・コンクルサル法(日本の会社更生法に近い)の適用を迫られた。

 クラブ財政の2極化はここ数年のリーグ戦の成績と比例し、2004~05シーズン以降は2強がタイトルを独占。昨季の2位バルセロナと3位バレンシアの間では、勝ち点30差がついた。印象的だったのは、11月4日に行われたリーガエスパニョーラ第10節レアル対サラゴサ(4-0)についてのMARCAの戦評だ。決して良いとは言えないパフォーマンスで大勝を飾ったレアルについて、「レアルは値もしないスコアの差を生み出し、同時にリーガの現状を浮き彫りにした。このリーグの格差は深淵なるものだ。レアルはライバルを圧倒するのに、良質なパフォーマンスをも必要としてしない」と記したのだ。リーガは、2強の障害物レースと化している感がある。

 2極化の要因の一部に挙げられるのは、各クラブが個別に映像会社と契約する方式を取っていることで、レアルとバルセロナが1億4000万ユーロと全体の40%の収入を占めるテレビ放送権料分配方法だ。そこに、眩い輝きを放つモデルケースとして、プレミアリーグがそびえ立つ。収入総額の50%を均等に、さらに生中継された試合数、順位に応じて25%ずつ分配するプレミアのシステムは、所属クラブの財政を確実に助けている。一括管理によるテレビ放送権の売却は収入増にもつながり、BSkyBと2013~14シーズンからの3シーズンで37億900万ユーロという破格の契約を勝ち取った。一方、リーガの現在の放送権収入は6億8000万ユーロで、2014~15シーズンまでに8億ユーロを目指す方針と、大きく水をあけられている。

 このような現状で、18日付のMARCAが衝撃的な報道を繰り出した。今季躍進を見せるアトレティコのエースFWラダメル・ファルカオが、来季にプレミアへ移籍すると報じたのだ。同紙によれば、マンチェスター・シティ、マンチェスター・ユナイテッド、チェルシーにはファルカオの移籍金設定額6000万ユーロを支払う用意があり、トッテナムも獲得の可能性を探っているのだという。アトレティコも、すでに後釜候補をピックアップしているとのことだ。財政的に厳しい状況にあるマンチェスター・ユナイテッドが6000万ユーロを支払うかは疑わしいが、この記事で何よりも強調されていたことは、プレミアリーグの強大さだった。

 MARCAは紙面で2ページを割きながら、リーガのレアルとバルセロナ以外のクラブがプレミアの「養殖場」となっていることを伝えた。確かに、最近の2強以外からのプレミアへの選手の流出は激しいものがある。MFダビド・シルバ(バレンシア→シティ)、MFフアン・マタ(バレンシア→チェルシー)、MFパブロ・エルナンデス(バレンシア→スウォンジー)、MFミチュ(ラージョ→スウォンジー)、MFサンティ・カソルラ(マラガ→アーセナル)、FWセルヒオ・アグエロ(アトレティコ→マンチェスター・シティ)ら、リーガを代表する選手たちがプレミアに活躍の舞台を移した。またレアルで出場機会が限られていたMFエステバン・グラネロも今夏、国内ではなくQPRに活躍の場を移した。それもそのはず。今夏の移籍市場でリーガのクラブが支払った移籍金の総額は1億2800万ユーロと欧州主要リーグの中では最低で、プレミアが6億1700万ユーロで最も高い。2強以外が獲得した最も高価だった選手は、MFセルヒオ・カナレス(マドリー→バレンシア)の750万ユーロ。リーガの2強以外で、グラネロの移籍金900万ユーロを支払えるクラブなど存在しなかった。

 選手流出の代わりに、各クラブのカンテラーノ(下部組織出身選手)の起用数が増えているとのデータもある。1部クラブのカンテラーノの起用数は23.5%と、ボスマン判決以降では極めて高い割合だ。カンテラーノをベースとしたメンバーで一昨季に1部昇格を果たしたベティスは、チームの成熟もあって今季には好成績を収めている。しかし、MFベニャ・エチェベリア(厳密に言えば、彼はビルバオのカンテラーノだが)を中心に、来季にどれだけの選手がいなくなるかは未知数だ。

 リーガに回り始めた毒の要素の大部分は、もちろんスペインを襲う大不況だ。が、そのトンネルをくぐり抜ける間に、放映権料の一括管理、開催日程の改善などできることも多分にある。世界有数のものに成熟したこの国サッカー文化が、他国の糧となり、自ら輝きを放てなくなるのは忍びない。(江間慎一郎=マドリード通信員)

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