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【コラム】海外通信員

メッシ、メッシ、メッシ!

[ 2012年11月18日 06:00 ]

11月17日サラゴサ戦、2ゴール1アシストの活躍を見せたバルセロナのFWメッシ
Photo By AP

 今年も残すところあと1カ月とちょっと。アルゼンチン代表チームは、11月14日に海外組のメンバーで行われるサウジアラビアとのテストマッチ(0―0の引き分け)と、21日に国内組で行われるブラジルとの南米スーペルクラシコ(当初10月3日に開催予定だったが停電のため延期)をもって、今年度の活動を終えることになる。

 2012年のアルゼンチン代表は、とにかくリオネル・メッシに尽きた。2月29日に行われた今年最初の試合で、スイスを相手にハットトリックを達成したのを皮切りに、6月2日のワールドカップ予選第5節対エクアドル戦での4-0という大勝利では、1ゴールに2アシストと大活躍。その1週間後には、ブラジルとの親善試合で再びハットトリックをやってのけ、8月15日のドイツとのテストマッチ、9月7日の予選第7節対パラグアイ戦で続けて1ゴールずつマーク。5試合連続して得点を決めた。

 そして、先月12日に行われた予選第9節の対ウルグアイ戦で2ゴール、16日の第10節の対チリ戦でも1ゴールをあげて、今年1年間の代表での得点数を12点とし、それまでガブリエル・バティストゥータが保持していた記録に並び、今まで「バルセロナではゴールを量産するのに代表では無得点」と執拗に責めてきた意地悪な人たちの口を見事にふさいだ。

 だが、今年のメッシが与えたインパクトは、ゴールの数だけではない。代表チームの中で、キャプテンとしてふさわしい存在になりつつあることも、アルゼンチンの人々を驚かせた。

 昨年9月にアレハンドロ・サベーラが代表監督に就任し、正式にチームのキャプテンに任命されたとき、誰もが「メッシにキャプテン章は似合わない」と感じた。メッシのことを昔から良く知るバルセロナの人たちも、キャプテンになったというニュースには首を傾げたという。

 アルゼンチンでも、メッシが代表のキャプテンを務めることに疑問を抱く人がほとんどだった。アルゼンチンでは、スポーツ界に限らず、いかなる分野においても、リーダーになる人は雄弁家と決まっている。言葉で人々を説得し、信頼を与えてから、先頭に立って引っ張って行くというのが一般的なリーダーなのである。

 その点メッシはどうだろう。子供の頃から無口で、インタビューも大の苦手。06年ワールドカップの期間中、キャンプ場でカルロス・テベスと一緒に会見に応じた際、テベスが記者団からの質問にジョークを交えながら次々と答える横で、メッシはただただ笑っているだけだった。「雄弁でなければ務まらないキャプテンなどできるわけがない」と思われたのは、当然の結果だったといえるだろう。

 ところが、メッシは今、代表チームの中で完全にリーダーとなっている。練習ではチームメイトの輪の中心となって皆に積極的に話しかけ、試合ではプレーで文字通りチームを引っ張っている。南米ではよく見られる、主審に歩み寄って抗議をするシーンも増えてきた。急に雄弁家になったわけではないが、キャプテンとしての貫禄が徐々についてきているのだ。

 ユース代表時代からメッシと仲の良いGKオスカル・ウスターリ(ボカ・ジュニオルス所属)は、親友のそんな変化について「父親になるのだから当然だ」と話した。恋人のアントネーラとの間に、11月2日に長男ティアゴを授かったメッシは、父親になる責任と一緒に、自分が代表チームを背負うのだという自覚を抱き始めたようだ。

 メッシに始まり、メッシに終わった2012年。知り合いのジャーナリストは「ワールドカップの開催が今年だったら良かったのに」と言ったが、私は再来年でいいと思っている。キャプテンとして、まだまだ成長の余地が残されているからだ。(藤坂ガルシア千鶴=ブエノスアイレス通信員)

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