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【コラム】海外通信員

デビュー8年目でさらなる成長を遂げるメッシ!

[ 2012年10月26日 06:00 ]

3年連続で世界最優秀選手に選ばれたバルセロナのメッシ
Photo By 共同

 リオネル・メッシが、04年10月16日のスペインリーグ第7節エスパニョール-バルセロナ戦(0-1)でデビューを飾ってからちょうど8年目を迎えた。3年前にデビュー5年目のメッシについて書いたことがあったが、今年25歳になったメッシはこの3年間でさらなる成長を遂げている。

 グアルディオラ監督がメッシのポジションを右ウィングから中央のシャドーCFに変えて自由に動き回るようになったおかげでゴール数が増えた上に、昨季から直接FKでも素晴らしいゴールを決めており、ゴールの手段が増えてきた。

 メッシの成長は09年度から3年連続でFIFAバロンドール(世界最優秀選手)賞を獲得していることでもわかる。3年連続の受賞は、現在、UEFA会長のミシェル・プラティニ(83、84、85年)に続いて2人目の快挙で、そして3度目の受賞は、ヨハン・クライフ(71、72、74年)、マルコ・ファン・バステン(88、89、92年)の名選手と肩を並べる快挙。メッシは今年度のFIFAバロンドール賞の最有力候補の1人に挙がっており、初の4年連続受賞も夢ではない。09年度はフランス・フットボール誌が選ぶバロンドール=欧州最優秀選手賞とFIFA年間最優秀選手賞を両方獲得した。

 メッシは、デビュー8年目直後の試合となった10月20日のスペインリーグ第8節デポルティーボ・デ・ラ・コルーニャ-バルサ戦(4-5)で今季の公式戦で初のハットトリックを決めて、全公式戦で通算416試合に出場して通算299ゴール目を決めた。しかもメッシがゴールを決めた167試合の勝敗は実に149勝15分け3敗で、メッシがゴールを決めるとバルサはほとんど負けない。

 既にメッシはこの8年間でセサル・ロドリゲス(1942~55)の通算232ゴールを抜いてバルサ歴代最多得点になっていたが、この試合でバルサ歴代最多の15回目のハットトリックを決めてセサル・ロドリゲスのハットトリック14回の記録も抜いた。ちなみにメッシは全公式戦で23回のハットトリック(バルサ21回、アルゼンチン代表2回)を決めており、そのうちバルサで5ゴール1回、4ゴール3回を決めている。

 また、メッシはこの試合で12年度にバルサで通算59ゴール目を決めて、10年度に自ら決めたバルサ歴代年間最多58ゴールを抜いた。さらにアルゼンチン代表でのゴールを含めると12年度に通算71ゴール(バルサ59、アルゼンチン代表12)を決めて、メッシが10年度に決めた年間最多60ゴール(バルサ58、アルゼンチン代表2)の記録を大幅に更新している。そのうち12年度のハットトリックは通算9回(バルサ7回、アルゼンチン代表2回)にもなる。

 これでメッシはサッカーの王様ペレが1959年度に決めた年間通算75ゴール(サントス66ゴール、ブラジル代表9ゴール)に4ゴールと迫り、さらに世界歴代年間最多ゴール記録を持つ72年度にゲルト・ミュラーが決めた85ゴール(バイエルン・ミュンヘン72、西ドイツ代表13)に14ゴールと迫っている。今年12年が終わるまで約2カ月あるので、これらの記録を破る可能性は高い。

 CLでのメッシの活躍も凄い。11年4月3日のCL準々決勝第2戦バルサ-ACミラン戦(3-1)でCL通算14ゴール目を決めて、ファン・ニステルロイ(02~03)の12ゴールを抜き、CL1シーズン最多得点王新記録を達成し、1962~63シーズンにインテルで14ゴールを決めたアルタフィーニと並んで欧州チャンピオンズ杯での1シーズン最多得点王となった。しかもメッシは現在まで4季連続CL得点王になっており、今季のCLで前人未到の5季連続5度目のCL得点王を目指している。また、メッシは、現在までCL通算53ゴールでCL歴代得点王ランキング4位だが、今季中に3位のシェフチェンコの59ゴール、2位のファン・ニステルロイの60ゴールを抜く可能性がある。ちなみにCL歴代得点王はラウル・ゴンサレスの71ゴールだ。

 メッシがこの8年間にバルサで獲得したタイトルも素晴らしい。スペインリーグ優勝5回、スペイン国王杯優勝2回、スペインスーパー杯優勝5回、チャンピオンズリーグ杯優勝3回、欧州スーパー杯優勝2回、トヨタ・クラブW杯優勝2回、さらにアルゼンチン代表でU-20W杯優勝1回、北京五輪優勝1回の合計21タイトルになる。

 ゴールを決めては記録を破り、個人タイトルも獲得し続けているメッシ本人は、「僕はゴールを誰よりも多く決めることや個人賞を獲得することよりも、チームの勝利とタイトルを獲得することの方が重要だ」と謙虚な上に相変わらず記録には無頓着だ。一般的に選手は現役時代には自分の数字や記録にあまり関心を持たないようだが、メッシは引退した時に彼の残した記録をしみじみと味わうことだろう。

 このようにメッシの成長はデビュー5年目以上に数字でもしっかり表れているが、一番の大きな変化、成長の鍵は、「バルサでフィジカル的に一番強いのはメッシ」とバルサのチームドクターのリカルド・プルナ医師が太鼓判を押すように、メッシはフィジカル的に強くなり、ケガが少なくなったことだろう。メッシは04~05シーズンにトップチームにデビューしてから09年末までに11回の大小のケガをしたが、09年12月に最後のケガをした時に、メッシ本人が「僕はいつも試合でプレーしたいのでケガを少なくするために身体改造を行いたい」とチームドクターに相談した。それに応えてチームドクターはメッシに食事、水分補給、休養、疲労回復のコントロールを始めた。特に食事療法を徹底し、メッシは家族の協力を得てバランスの取れた生活を送るように努力した結果、その後は比較的軽いケガしかしなくなった。

 10歳頃に成長ホルモンの分泌異常で身長が止まる病気をわずらったものの、驚くべきサッカーの才能のお陰でメッシは13歳の時に僅か身長1メートル43でバルサにやって来たが、その後、1メートル69、67キロの体にまで成長し、さらに強靭なフィジカルも手に入れることができた。

 そんなメッシでさえも、足りないものがある。メッシは、アルゼンチン代表で05年オランダU-20W杯(アルゼンチンU-20代表)、08年北京五輪優勝(アルゼンチンU-23代表)の2タイトルを獲得しているものの、依然としてアルゼンチンA代表ではW杯でも南米選手権でもタイトルを獲得していないのも事実である。

 メッシは母国アルゼンチンで開催された11年南米選手権に準々決勝でウルグアイにPK戦で敗退した後、アルゼンチン代表監督に就任したアレハンドロ・サベージャ新監督からマスチェラーノに代わって新キャプテンに指名され、11年9月2日にインドのコルカタで行われた親善試合アルゼンチン-ベネズエラ戦からキャプテンを務め、さらなる責任を持ち始めた。そしてメッシは14年W杯ブラジル大会南米予選9試合で7ゴールを決める活躍でアルゼンチンを首位に導き、今まで受けの悪かったアルゼンチン国民から信頼を勝ち取り始めている。これはここ数年のバルサでのメッシの著しい活躍に加え、現在のアルゼンチン代表の主力が08年北京五輪で優勝したU-23代表のメンバーで、ほとんどがアルゼンチン国外でプレーしているものの、以前に比べてチームが機能しており、ようやくアルゼンチン国民もメッシに対する親近感が湧いたようだ。

 メッシは05年8月にアルゼンチンA代表にデビューしてから09年10月までの最初の4年間に公式戦で通算43試合に12ゴールを決めていたが、この3年間でさらに32試合で19ゴールを決める活躍、これまで公式戦通算75試合で31ゴールを決めている。現在、メッシはアルゼンチン代表歴代得点王ランキングの4位で、歴代得点王のガブリエル・バティストゥータの56ゴール(78試合)には及ばないものの、3位のディエゴ・マラドーナの34ゴール(91試合)、2位のエルナン・クレスポの35ゴール(64試合)に迫る勢いだ。

 さらにメッシを成長させる理由は、08年の冬から正式に付き合い始めた婚約者のアントネラ・ロクッソさんが出産間近であることだ。既に10月18日にアルゼンチンからメッシとアントネラさんの両家族がバルセロナに到着した。出産予定日は当初10月20日と言われていたが、どうも計算間違いで11月初旬になりそうだが、生まれる予定の男の子の名前は“Thiago”(=ティアゴ)に決めており、「僕の息子が生まれることにとてもワクワクしている。父親になることは重大な責任を持つことになるが、とても素晴らしい責任だ。子供はできるだけ多い方が良いね」と喜びのコメントをしており、メッシは公私ともにますます充実しそうだ。

 メッシは「僕はバルサに全ての借りがある。僕はバルサのためにタイトルを取り続けたいが、僕の夢の一つはアルゼンチン代表でW杯に優勝することだ。2年後の14年W杯ブラジル大会でその夢を実現したい。」と新たな意欲に燃えている。デビュー10年後のメッシを語る時は、メッシのゴールでアルゼンチンが14年W杯ブラジル大会に優勝しているかもしれない。(小田郁子=バルセロナ通信員)

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