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【コラム】海外通信員

7・28ベルギーリーグ開幕 川島、目標は優勝

[ 2012年7月28日 06:00 ]

強豪スタンダール・リエージュへの入団会見時の日本代表GK川島永嗣
Photo By スポニチ

 ロンドンオリンピックの真っ只中の7月28日からベルギーリーグが開幕。ベルギー国内でステップアップを果たした川島英嗣の新しい挑戦が始まる。2010年W杯南アフリカ大会後にベルギーのリールセに移籍した川島は、2年間戦い抜いて契約を満了した。特に2年目は主将としてチームを引っ張り、1年目とは違って、残留争いに巻き込まれることもなくシーズンを終了させた。様々な移籍先が取り沙汰されたが、最終的には、同じベルギーの強豪、スタンダール・リエージュに決まった。

 入団会見は7月18日。同月29日に開幕戦があることを考えれば、スタートからスタメンでプレーしようとするならギリギリのタイミングだった。日本人記者の「ホッとしましたね」という問いかけに、「そうですね。ようやく決まりました。全部ハッキリして、自分の気持ち的にもスッキリしています」と胸をなで下ろした。

 スタンダール・リエージュはリーグ優勝10回を数える強豪だ。近年では、07~08、08~09シーズンで連覇している。ベルギーでは、アンデルレヒト、クラブ・ブルージュ、そしてスタンダール・リエージュが3大クラブ。さらに最近はAAゲント、ゲンクが力を付けて、この5クラブがビッグ5と言われている。優勝争いはこの5クラブで展開されると考えればいい。スタンダール・リエージュも今季、優勝を目指して戦いをスタートさせることになる。

 「オフの間など、自分がどういうステップを踏むのか、いろいろなことを考えていました。今回、何かを成し遂げられる、勝ち取れるクラブに来ることができたというのは、自分にとって本当にいいステップだと思っています。サポーターも含めて、素晴らしいクラブで、やり甲斐のあるクラブなんじゃないかと思っています」

 ただ、毎年優勝を目指しているスタンダールだが、いつも安定した成績が残せるかというと、なかなか難しい。09~10シーズンは、若手を中心としたチームでヨーロッパリーグでベスト4まで進出したこともあって、スタンダールは他国のスカウトが注目するクラブのひとつなのだ。その結果、若いうちに選手がどんどん引き抜かれることになった。

 川島とスタンダールと言えば、10年11月27日のリーグ戦、スタンダール対リールセの試合が思い出される。スタンダールのホームゲームで、川島が守るリールセは0ー7で敗れた。その時のスタンダールにはMFアレックス・ウィッツェル、MFスティーブン・デフォーがいた。両者はシーズン後に、それぞれベンフィカ、ポルトへと引き抜かれた。ともにベルギー代表だが、デフォーが現在24歳、ウィッツエルは23歳とまだ若い。ウィッツェルはベンフィカでの活躍で今ではレアル・マドリードが食指を伸ばしているほどだ。他国のスカウトが注目するタレントがスタンダールからは排出されているのだ。ふたりだけではなく、例えば現在23歳のメフディ・カルセラというテクニシャンタイプの攻撃的MFもいたが、彼はアンジ・マハチカラに引き抜かれている。そして、ウィッツェルとデフォー、カルセラらが移籍した直後のシーズンの昨季は、5位に終わった。

 改めて優勝を狙うスタンダールだが、今季から新しい監督を迎えた。オランダ人のロン・ヤンスだ。昨季までオランダのヘーレンフェーン、その前はフローニンヘンで監督を務めていた。現役時代には、87~88シーズンにサンフレッチェ広島の前身であるマツダでプレーしていたこともある。

 「監督は昔、日本でプレーしていたことがあるので。日本語でちょっとしゃべったり。あいさつ程度ですけどね。でも非常にポジティブな人だし、気さくな人。練習に参加してみると、チームもすごくいい雰囲気なので、チームとしていい戦いができるんじゃないかという印象を持ちました」

 川島個人としても、チームとしても、新しい監督とのチーム作りは順調にスタートしているようだ。

 そんなヤンス監督が率いるチームは、4ー4ー2、もしくは4ー4ー1ー1というフォーメーションで戦っていくことになりそうだ。川島の背番号は1番。他に正GK候補としてはトルコ人GKのボラトがいるが、ケガで長期離脱中。チームを離れる可能性もあり、去就もまだ分からない状況だ。もう一人、モリスというGKがいるが、22歳と若い。チームは経験豊富なファーストGKの補強の必要性を感じて川島を獲得した経緯からも、川島がスタメン候補だ。

 川島の前の2人のセンターバックにはベルギー代表が並ぶ。主将の背番号37、イェレ・ファンダメは、元アヤックスで、サイドバックやサイドMFとしてもプレー可能。だが、ヤンス監督はこの28歳で191cmの長身のオールラウンダーをセンターバックで起用するつもりのようだ。もう一人は6番のロレント・シマン。26歳で派手さはないが、的確なポジショニング、丁寧なビルドアップでチームを落ち着かせる。ボランチには、背番号21のウィリアム・バンキエールがいる。23歳のフランス人だが、柔らかいプレーでボール扱いとパスが巧みな上に、守備時のカバーリングもうまい。攻守両面に効果的で、ワンボランチが務められるだけのセンスの持ち主だ。このセンターバック2人とボランチの3人が、まずは川島が連携を深めなければいけない守備陣の中心選手たちになる。

 その他の注目選手としては、背番号15、ベルギー代表の左サイドバックのポコニョーリ。背番号10のウルグアイ代表攻撃的MFイグナシオ・ゴンサレス。背番号8で今季新加入、過去にリバプールに所属していたこともある22歳のスウェーデン人攻撃的MFアストリット・アジダレビッチ。そして、こちらも新加入のベルギー代表FW、背番号31のマルビン・オグンジミ。

 7月18日の入団会見の後、午後7時半から、スペインのマジョルカとの親善試合が行われた。川島は後半から出場。試合は1ー0でスタンダールが勝利している。試合前には、川島はチームのシュート練習のときにゴールマウスに立っていたが、リールセ時代とはまったく違う、質の高いシュートがドンドンと川島の届かないコースへと飛んでいた。

 「(シュートの質はリールセ時代とは)全然違いますね。やっていて楽しいですよ」と試合後の川島。試合中の指示に関しても問題はなかったようだ。「英語でも分かってくれるし、全然気にしていません。フランス語をしゃべるようにしていますけど、とりあえず何でもかんでもしゃべるようにはしています」

 実際の守備に関しても、さすがに国際経験豊富なベルギー代表センターバック2人ということもあって、いきなりにもかかわらず、川島ともソツなく連携が取れていた。

 7月21日には、トルコのトラブゾンスポルとのリーグ戦前の最後の練習試合があった。川島は先発フル出場。チームは0ー0で引き分けた。現在のところ、スタンダールは4-4-2でラインを上げてコンパクトに保った、内容のあるサッカーを見せている。経験豊富な2人のセンターバックのラインコントロールも絶妙で、高い位置からボールを追い込んでいく守備は抜群に機能している。むしろ、FWオグンジミら新加入選手の連携が成熟していない得点力の方が課題かもしれない。少なくともしばらくは川島を中心とした守備陣が失点しないことが、勝点を積み重ねていく上では重要になっいてきそうだ。

 「このクラブはチャンピオンになることだったり、ベルギーの中では勝つことを義務付けられたチームだと思います。今年はチャンピオンズリーグやヨーロッパリーグがない分、リーグ戦に照準を合わせて、優勝できるようにやっていきたいと思います。チャンピオンズリーグは今年プレーできればベストでしたけど、今年出場権を獲得するために本気になって戦えるということは、大きなモチベーションになります。今年、リーグ戦でいい結果を残して、来年につなげていきたいと思います」

 川島の今季の目標は明確だ。ひとつはリーグ優勝。そして、もうひとつは、来シーズンに日本人GK初のチャンピオンズリーグ出場を成し遂げるためのチャンピオンズリーグ出場権獲得。第一歩となる開幕戦は、7月29日日曜日、ホームのズルテ・ワレヘム戦だ。(堀秀年=ロッテルダム通信員)

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