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【コラム】海外通信員

“皇帝” ダニエル パサレラ!?

[ 2012年7月21日 06:00 ]

 クラブ史上最悪の汚点となった2部リーグ落ちから1年、最短期間で1部に復帰したリバープレートだが、2部でもパッとしない試合内容が続き、アルメイダ監督に批判が集まる中で結果を出したのはさすがだった。パサレラ会長をはじめ、監督、選手、関係者もまずは最低限のノルマを果たし、ホッと一安心だあった。しかし、今度は、パサレラ会長への抗議、クラブ内部での問題が発生し、ファンの怒りが爆破した。

 ダニエル・パサレラは78年W杯アルゼンチン大会で優勝したアルゼンチン代表のDFでキャプテン。身長1メートル74、体重71キロと、決して大柄ではない選手だったが、当時から精神的な強さは際立っていた。そのW杯から34年がたつが、アルゼンチンでは、いまだにマラドーナとパサレラの2人はW杯を獲得した国民的英雄と言われている。

 パサレラは選手として、リーベル、フィオレンティーナ(イタリア)、インテル・ミラノ(イタリア)でプレー、その後監督ライセンスを獲得し、リーベル、アルゼンチン代表監督を務め、98年W杯フランス大会に出場した。結果は、準々決勝でオランダに敗れてベスト8止まりだった。1次リーグ初戦では、W杯初出場の日本と対戦した。GK川口のセービングをかわしたバティストゥ―タがゴールを決めて1-0で勝った。

 パサレラは“皇帝”といわれるだけあって強い信念をもっている。アルゼンチン代表監督時代には、選手の長髪を禁止し、当時最高の選手といわれたMFレドンドと衝突し、代表招集拒否事件が起きた。そのイメージがいまだにアルゼンチン国民の脳裏に焼きついており、パサレラ=独裁者と見られている。そして今度はリーベルの会長として、ファンの怒りをかう事件を起こした。リーベルが2部落ちした時、チームを救おうと真っ先に駆けつけ、活躍したフェルナンド・カベナギとアレハンドロ・ドミンゲスを戦力外にしてしまった。しかもアルメイダ監督は、本人に話す前にマスコミに話し、本人には寝耳に水だった。

 この対応にファンは大激怒。若手主体のチームに経験のある選手が加わったことでチームのバランスが取れたもので、大きな功績を残した2人を戦力外にしたことで、「使い捨ては許さない」と、何千人ものファンがリーベルスタジアム前に集まり“BANDELAZO(多数の旗を振りかざして行う抗議集会)”を開いて抗議した。

 今度はチームが対抗措置としてカベナギ、ドミンゲスが1部昇格した際の特別報酬について、契約内容をチームのホームページに掲載した。ちなみにその額は、カベナギは61万5000ドル、ドミンゲス40万5000ドルだった。契約内容を明らかにすることで、「彼らは十分なお金をもらっているんだ」ということをアピールしたかったのであろうが、結果的にはファンの怒りに油を注ぐだけだった。

 ビックチームらしくないやり方に、サポーターも失望し、怒りはピークに達して“パサレラ追放”を訴えるようになった。「パサレラがいる間は、監督にならない」という監督も多いが、今回の対応を見ればうなずける。

 度々問題を引き起こすパサレラは皇帝なのか?それとも独裁者なのか?パサレラの性格は変わらないだけに、残された道はただ一つ、リーグ優勝、リべルタドーレス杯優勝、世界クラブ選手権優勝を果たして常勝チームにすることだ。それとも自分を育ててくれたクラブを自らの手でつぶしてしまうのか…。過去の栄光を取り戻すことが残された唯一の道だと思う。(大野 賢司=ブエノスアイレス通信員)

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