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【コラム】海外通信員

おちおちしていられないぞ、ブラジル!

[ 2012年6月15日 06:00 ]

 久しぶりにサッカーシーズン真っ最中の日本に帰ってきて気付いたことがある。テレビでサッカーの試合が頻繁に放送されていることだ。

 BS、CSでJ1、J2の試合はもちろんのこと、海外サッカーまで、ごく当たり前に世界の試合が見られるし、地上放送もニュースで常にサッカーの話題が取り上げられている。さらには、2014年ブラジルW杯アジア最終予選真っ最中ということもあり日本代表の話題も事欠かない。

 このところ一時帰国をするのが年末年始に限られていたため、日本ではサッカーの報道や試合中継が少ないのかなと勝手に想像をしていたが、それが大間違ということがわかった。サッカーの存在感は思っていたよりも大きかった。

 W杯ブラジル大会アジア予選最終が始まったところで、日本代表の緊迫した試合が繰り広げられている。メンバーの顔触れも豪華で、ほとんどの選手が欧州リーグでプレーしている。彼らのプレーを見ていると、数年前の日本代表とは全く違うことがわかる。ブラジルでは、日本サッカーは選手がよく走るわりにボールが走らないと皮肉を言われるが、今の日本代表の試合はボールがよく走っていた。

 今、日本代表とブラジル代表が試合したらどうなるだろう?
これまで、ブラジルは日本に対して圧倒的な優勢を誇っていた。ブラジルで、日本はサッカー後進国というイメージを持っている人が多いが、日本代表のメンバーも海外組が当たり前、しかも各クラブでレギュラー、リーグ優勝の原動力になっている選手もいる。マンチェスターUに移籍が決まった香川など、そこらのブラジルのクラブの選手などはるかに超えたスーパープレーヤーだ。もはや、W杯出場は当たり前の世界だろう。

 これまでブラジルは、底辺の広さ、サッカー人口の多さから、豊富な人材から天才や人並み外れたレベルのプレーヤーたちを集めてチームを作るだけでも、ハイレベルな試合をすることができた。しかし、今や情報も豊富で、世界中のサッカーを映像で見ることは簡単だ。サッカー後進国と言われた国々もどんどんレベルを上げてきているのが現実だ。ブラジルといえども、あぐらをかいているわけにはいかない。

 経済界では、ブラジルは新興国として成長し先進国に追い上げを図っているが、サッカーの世界でいえば、先進国ブラジルは、新興国の日本に大きく追い上げられてきている。以前のように、アビリティーに物を言わせ、相手を寄せ付けなかった時代は終わってしまった。まるで経済大国日本が、新興国に追い上げられているように、サッカー王国ブラジルは、王者の座をどうやって取り戻せばよいか苦しんでいる。感慨深いものだ。

 14年W杯まで、わずか2年となった今、開催国としてインフラの整備は計画通りには進んでおらず、そればかりか、優勝が絶対的な使命である代表チームもテストする選手の数は増える割に未だにチーム作りが進んでいないと批判を受けている。今年は、五輪イヤーということもあり、A代表と五輪代表の監督を兼任するマノ・メネーゼス監督は五輪チームも作らなければならないし、国民の期待だけは当たり前のように金メダル。他国は予選を本気で戦い、真剣味を帯びたチーム作りに余念がないというのに、優勝のミッションを背負った肝心の開催国が一番2年後を見据えたチーム作りに後れを取っているようだ。

 6月にアメリカで行われた五輪代表のフレンドリーマッチでは、メキシコとアルゼンチンに敗北。アルゼンチンにはメッシにハットトリックをやられ、敗北感は倍増だ。

 開催国のため予選免除と言うのも、盛り上がらない理由の一つだ。これまでなら、欧州で活躍するスター選手が、予選のホーム試合には絶対にブラジルに帰ってくるという大イベントがあったため、国民は少なくとも南米予選の時には、セレソンを身近に感じることができたし、関心も当然大きかったのだが、今回は予選の緊迫した空気と国民の熱気の両者がない。ブラジルにいるよりも日本にいる方が、14年W杯の気配を感じるほどだ。

 考えてみれば、W杯は2年後だが、コンフェデレーションズカップはわずか一年後。いったい1年後に完成しているスタジアムはどこにあるのだろう。インフラ、特に空港の整備は間に合うのだろうか。のんびりモードが過ぎている。さすがに、FIFAも勧告せざるを得ない。どれほど、こののんびりモードにいらいらしていることだろう。お察しいたします。

 さて、日本代表の話に戻るが、世界レベルのステージに上がった日本が、オマーンやヨルダン相手に快勝するのは当然として、強豪国相手に真剣勝負の場で戦って(お客さんとして招待したフレンドリーマッチではわからない)、いったいどれくらいレベルアップしたのかを知りたいものだ。願わくは、1年後のコンフェデレーションズカップで、思い切りアウェーのブラジルに乗り込んだ日本が、周囲をすべて敵に回しながらブラジル相手に勝負を挑むというシーンを見てみたい。まずは、スタジアムが完成していることが前提だが…。(大野美夏=サンパウロ通信員)

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