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【コラム】海外通信員

メッシを輝かせた名脇役

[ 2012年6月9日 06:00 ]

アルゼンチン代表MFフェルナンド・ガゴ (c)Photogamma
Photo By スポニチ

 6月2日に行われたワールドカップ南米地区予選第5節で、アレハンドロ・サベーラ監督率いるアルゼンチンはホームにエクアドルを迎え、4―0と快勝を遂げた。前線で猛攻を仕掛けるアグエロ、イグアイン、メッシ、ディ・マリアがそれぞれ得点をマークするという理想的なゲーム展開に、満員のスタジアムは大いに沸いた。

 特に観衆から終始拍手喝采を浴びていたのがメッシである。試合前のメンバー紹介でメッシの名前がアナウンスされるや、スタンドのサポーターたちから大きな拍手が起こり、試合中もボールを持つたびに大歓声。さらにコーナーキックを蹴るためにボールを持って準備に向かえば、コーナーに陣取る人たちが両手を上下に動かしてメッシにひれ伏せるジェスチャーを見せる。アルゼンチンの人々が代表チームでのメッシに対して目に見える明確な形で敬意を表したのは、この試合が初めてだった。

 アルゼンチンの3点目となるゴールを決めた後、ボールをシャツの下に入れる「おめでたパフォーマンス」を披露し、ガールフレンドの妊娠を公に認める余裕まで見せたメッシ。これには、プレス席にいた記者たちやピッチ上の警備員たちまでが拍手を送っていた。

 W杯予選という真剣勝負の場で、4得点につながる全てのプレーに絡み、文字通りチームを勝利に導いたメッシは、間違いなくこの日の主役だった。しかし、彼がこれほどまでに輝いた裏には、あるひとりの選手の功労があったことを忘れてはならない。中盤でひたすらボールをインターセプトし、攻撃の基点となっていたフェルナンド・ガゴである。

 エクアドル戦でのガゴは、常にメッシを探し求めていた。私の隣に座っていた記者は、ゲーム中に鋭く「ガゴはパスを受ける直前に必ずメッシの位置を確認している」と指摘していたが、本当にその通りで、ボールを持つ度に絶妙なタイミングでメッシに効果的なパスを出していた。

 ガゴがメッシと一緒にプレーするのは、もちろんこれが初めてではない。05年U―20ワールドカップや08年北京五輪でもチームメイトとなっており、ともにタイトル獲得に大きく貢献している。

 だが、A代表では今まで、思ったように実力を発揮できずにいた。ディエゴ・マラドーナが代表監督を務めていた頃はパサーとしての大役を果たしきることができず、前回のW杯予選では終盤戦における連敗の戦犯の1人とされたほどだった。結局、本大会に出場する候補30人のリストに入るも、マラドーナはマリオ・ボラッティを選び、最終メンバーからガゴを外した。

 その後、北京五輪でのメンバーをベースにA代表を築こうとしたセルヒオ・バティスタ監督によってチームに復帰し、昨年のコパ・アメリカに出場。先発出場したグループリーグの対コスタリカ戦で活躍したが、アルゼンチンは続く準々決勝の対ウルグアイ戦でPK戦の末に敗退。大会後、バティスタ監督が解雇されたため、ガゴは再びA代表から遠ざかることになってしまったのである。

 だがその後、レンタル先のローマで右サイドハーフとして活躍するようになると、サベーラ監督は予選への招集を迷わなかった。第3節のボリビア戦で先発出場し、第4節のコロンビア戦ではタイムアップ寸前に交代出場。そして今回のエクアドル戦で、ようやくメッシに効果的なパスを供給するタイミングをつかんだ自分をアピールすることに成功した。

 アルゼンチンの著名ジャーナリスト、フアン・パブロ・バルスキーは、エクアドル戦の2日後、スポーツ紙のコラムに「ガゴはアルゼンチン代表におけるチャビになった」と書いた。これまで代表でのメッシは、バルセロナでのチャビのような存在が必要と言われ続けてきたが、ガゴがその役割を果たすようになったというわけである。

 サベーラ監督のチームではまだ、守備全般における深刻な課題が残されたままとなっている。しかし、メッシ、アグエロ、イグアインといった破壊力と決定力に申し分のない3トップを活かすチャビ役を従えた今、アルゼンチン代表は長期の間見失っていた方向性を見出したと言えよう。(藤坂ガルシア千鶴=ブエノスアイレス通信員)

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