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【コラム】海外通信員

イタリアサッカー界“激震”八百長再び ヨーロッパ舞台剥奪か!?

[ 2012年5月31日 06:00 ]

八百長関与の疑いで捜査当局から事情聴取されたユベントスのコンテ監督
Photo By AP

 29日朝9時00分(イタリア現地時間)、イタリア北部モデナ近郊を震源とするマグニチュード5.8の地震が発生した。20日に起った地震の震源地からさほど離れておらず、余震と見られるが、震源が比較的浅かったことに加えて相次ぐ揺れでダメージが蓄積されていたためか、歴史的建造物を中心に多くの建物が倒壊。30日現在、死者は17人。先の地震と合わせると26人が犠牲となり、負傷者は400人にのぼった。同日、同じエミリア・ロマーニャ州にあるパルマで予定されていた国際親善試合、イタリア対ルクセンブルクの試合は中止となった。

 一方、イタリアサッカー界には別の“激震”で揺れている。28日の朝、警察が各地で動いた。 セリエAの試合での八百長容疑が発覚したのだ。「集団的犯罪の関与」の容疑により17人が逮捕、その中にはラツィオMFステファーノ・マウリやジェノアの元主将オマール・ミラネット(現セリエBパドバ)などの現役選手が含まれていた。そしてイタリア代表が欧州選手権に向けて合宿を張るフィレンツェ近郊のナショナルトレセンにも、警察が事情聴取に訪れた。

 その対象となったのは元ジェノアのドメニコ・クリッシト(現ゼニト・サンクトペテルブルク)。11年の5月14日に行われたレッチェ対ラツィオ戦(2―4)、および22日のラツィオ対ジェノア戦(4―2)などが疑惑の対象になっていたのだ。一連の事件を捜査しているクレモナ地検のデ・マルティーノ検事は同日の記者会見で「事件は今までの逮捕者による供述の他、ハンガリー人犯罪組織に対する国際捜査から容疑を固めたもので、状況証拠も揃ったものについては逮捕に踏み切った」と説明した。

 昨年2月、フィンランドでシンガポール人のブックメーカーが逮捕され、取り調べの過程で「東欧を中心とした犯罪組織が国際的な八百長に関与している」という疑いが浮上。そしてイタリア国内で捜査を進めた結果、セリエB以下のカテゴリーで八百長が発覚し、元イタリア代表ドーニらの現役選手やシニョーリら著名な引退選手らが大勢逮捕された。国内でのサッカー賭博には厳しい規制が掛かっているが、国際的なネットベッティングならば足も付きにくい。そこに不穏な輩が選手や関係者を買収して、賭け通りの試合結果になるように操作したというものだ。当時「このような犯罪組織の影響が及ぶのは、比較的ガードの緩い下部カテゴリーだけ」といわれていたが、捜査の過程でセリエAの選手も八百長に関与したことが発覚。

 その結果「東欧人グループから金を受け取っていた」と暴露され逮捕に至ったのがマウリ、そしてミラネットだった。一方証拠に乏しいとされるクリッシトについては「今後取調べを実施するので、弁護人を付けておくように」という通知があったのみで、容疑は確定していない。ただイタリアサッカー協会の内規に従えば、この状態でも代表から外される理由になってしまう。左SBとしてスタメンとなったであろう彼のEURO行きは、なくなった。

 また優勝したユベントスのコンテ監督にも警察の尋問があり、クリッシト同様今後の取調べについての通知を受けた。もっともこれはユーベの試合ではなく、昨シーズンに指揮していたシエナ(当時B)の試合に関する容疑だ。彼らについては9試合での八百長が疑われており、元所属選手のなかには「今日はわざと負けるようクラブから指示を受け、それにはメッザローマ会長が絡んでいる。コンテ監督もこれを知っていた」などと供述している者もいるという。

 これで終わりではない。八百長の案件を捜査しているのはクレモナだけではなく、ナポリやバーリの地検もしかり。非常に残念な話だが、新たな容疑が発覚し、拡大する可能性はじゅうぶんにある。そして気になるのが処分の行方だ。「シエナは降格の危機。そして選手による八百長が認められれば、ラツィオもナポリもクラブとして処分される可能性がある。その場合はUEFAの規定により、ヨーロッパリーグの出場権が剥奪される」という見解を地元メディアは示している。

 この不祥事について、イタリア内閣のトップも嘆いた。「若さと公正さという社会でも崇高な部分を担うはずのスポーツで、このような不正が発生したことはゆゆしき事態で、正されるべきだ」。28日、ポーランド首相との共同記者会見の中でこう発言したモンティ首相は、「首相としての発言でも政府見解でもなく、あくまで私自身の個人的な思い」としつつ「もし我われイタリア国民の成熟に有益でないのなら、2、3年はこの競技をストップするべきなのではないか」と糾弾した。

 「以前サッカークラブは公金を損失補填に利用しようとしたことがある」とまで語った首相発言には、財政健全化を断行するテクノクラート内閣を率いる立場としての勇み足も見られ、イタリアサッカー協会のアベーテ会長は「クラブは一銭も公金を願い出てないし、むしろプロサッカー界は今年11億ユーロ(約1080億円)もの税金を国庫に納めた」と反論している。だが少なくとも、不正を恥ずかしく思った首相の気持ちは分かる。

 胴元はアジア、工作員は東欧人と外国人犯罪グループの暗躍がこの事件のアウトライン。だがそれだけでなく「八百長にはカモッラ(ナポリの犯罪組織)なども絡んでいる」と当局は睨んでいるという。サッカー界はもちろんのこと、不正の自浄が困難なイタリア社会の病理も現れているかもしれない八百長問題。2006年、サッカースキャンダルのただ中でドイツW杯を闘った代表MFのデ・ロッシは、報道陣を前に表情を曇らせ、こう語った。

 「より事態は深刻だ。あの時は代表の合宿地に警察が立ち入ることまではなかったからね。そして僕の友人、かつてのチームメイトが何人も逮捕された。みんな無実であって欲しいけど、こういうことの裏にどういう真実が隠されているのかと思うと怖いよ」。(神尾光臣=イタリア通信員)

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